5ー6



 蒼い。蒼い空を見ていた。おかしい。見慣れすぎたほどの景色のはずなのに。その光景を妙に新鮮に感じるのは何故だろうか。



 茫然と開いたままのまぶたは、微動だにしない。



 生ぬるい液体が背中越しに地面を放射状に広がっている。赤黒く粘ついた水たまりにびちゃびちゃと腕を振るい、手を掲げる。聞こえてくる煌々と光るくれないは、宮島の紅葉を思い出した。



 それが自身のものだということに遅れて気がついた。



 これは――夢だ。



 水面が波紋を呼び、ジェルを華奢な体躯が突き破る。浮かび上がった胸で大きく息を吸い、しぶきを散らせる。オレンジの人工的な光に、手をかざす。

 瞬いた瞳を上に落とし、私は脚間の違和感に切ない微笑みをのせた。


「……のぼせちゃうよ」


「先輩こそ」


 異なる四肢をゆっくりと上下に揺らし、火照った理性が享楽の渦に巻かれる。いつになく積極的な後輩に「後一回」と促して、小豆もその快感に陶酔した。



 かつて処女膜のあった聖母の亡骸に、大きく硬化したものを捉え、六度目の絶頂を迎えるべく吸着する。肉の重なるおとが、生々しく響き渡った。



 ――壊れちゃえ。


「……ッ!」


 切なげな声が、もやがかった浴室を媚薬でも浴びるかのように、密着する。

 離れては戻り、また、戻る。

 長いストロークがブレストする。歯を食いしばって、受け止めた感触は電気信号となって全身を駆け巡り、頭を真っ白にした。



 一瞬の絶頂ののちに、白濁した夜の泡を湯船に垂らしながら腰を下ろす。

 仰向けになった少女に被さるように、少年のからだは崩れた。


「ねえ、今日はどうしたの……。君らしくないよ」


 ポチャン。異性とは思えないあでやかで触りごこちのいい髪から、水滴が少女のたわわな果実の輪郭線をなぞり、垂れる。


「……」



 おなじシャンプーの匂い――。



 体力を使い果たしたのか、挿入部から結合したまま離れようとしない。まるで母親にねだる赤子のように、その仕草は切実で、いやらしい。


「……先輩が離してくれないから」


 わざとらしい。薄い見栄を張った小さき恋人の肩を、ゆっくりと腕に抱きしめる。

 いたわるように自身の胸に引き寄せ、少年もそれに応える。生ぬるい雫が舌を濡らした。

 ぎゅっと腕が絡まり、より一層2人の距離が縮まる。


「ねえ、茶柱くん」


「……」


「私たちっていつから、こんなのになっちゃったのかな――」


 反射する彼の眼差しからは、汚れきった女の死体が顔を覗かせていた。

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