5ー3

 厳島神社には、もう一つ特徴的なものがある。

 寝殿造―――平安時代、貴族が居住する寝殿と呼ばれる建物を中心に、その東西に対屋という付属的な建物を配置し、それらを通路で結ぶ対称形の配置を基本とした建築様式だ。

 寝殿の前面には舞や儀式の場となる「庭」や「池」も設けるのだが、ここでは瀬戸内海を池にみたてた見事な発想で、平安貴族の雅さを表している。

 社殿の主要部分は平安時代に造営されたらしいが、その後、火災などにより修復が繰り替えされ、何度か手が加えられている。

 考えに考え尽くされた旧時代の建築物を賞賛の意気で見て回り、ふと脚を止める。


「あっ、そうだ」


「?」


「ここって神社なんだから、お賽銭しようよ」


「――ぼく、無宗教なんですけど」


「それは私もだよ。いいからっ」


 口をへの字に曲げる茶柱の手を引き、赦殿の前に立つ。神様の財布箱にささやかな賽銭を入れ、手を合わせる。願うことなど特になかったが、数少ない選択肢の隣に視線をやる。

 ――茶柱くんとこのままずっといれますように。

 気付けば、私は彼よりも長く祈っていたようだ。薄緑の瞳がこちらを覗き込む。それににこりっと微笑んで、足取り軽く回廊を渡る。


「なにお祈りしたの?」


「先輩は?」


「私は秘密だよ」


「僕は先輩ともっと一緒にいたいって願いました」


「……そ、そういうのって、言わないほうが……いいとかいうじゃん」


「あれ、もしかして照れてます?」


 ふふっ、と冗談めかして笑う少年をまるで服を剥がされたかのような羞恥の目で睨み、ぽかぽかと肩を叩く。なんだか釈然としない。

 その後も観光は続いた。神社や寺、鹿の大群と遭遇したり、商店通りで食べ歩いた焼き牡蠣と揚げ紅葉もみじは最高に美味しかった。もしかしたら茶柱より私の方が満喫していたかもしれない。

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