3ー3

 電車の過ぎ去ったあとは、木枯らしもはたとやんで、しんしんと降り積もる雪の夜に似たわびしさが後にひいた。先ほどの全てを飲み下すのに少々の時間を要しながら、ホームの階段を降りる。

 来た道を左に逸れて、またどこを目指すわけでもなく歩き出した。

 純情な水結晶が一つ、タイルに落ちる。ぽつぽつと二滴、三滴と降り始め、暗雲がようやく出た陽を遮ってしまう。

 それをぼんやりと眺めて、半ば勝手に口が動いた。


「………あ」


 雨が降ってきた。小降りだが傘を持っていない小豆には武が悪い。近くの軒下に待避しつつ、雨空を窺う。

 発達した積乱雲が太陽に反抗して、むやみやたらと嬌液を漏らし続けている。

 この様子だと止まなそうだ。

 参ったなと思いながらも、仕方が無いので覚悟を決めて走り出す。出来はじめの水たまりに運悪く脚を突っ込み、制服が淫らに濡れ、肌にべたつく。防寒対策で着込んでいたので、被害が甚大だ。

 帰ったらまたシャワーだな、どうでもいいことを考え、腕を振るう。

 しばらく小走りを続けていると、振りきった腕がそのまま背後で止まり、強引に脚を止められ、蹴躓く。おもいきり尻餅をついてしまった小豆の頭上に、跳ねっ気のある鈍い音が雨を切り裂いた。


「……茶柱くん」


 すっかりびしょ濡れになった私に恋人は優しくひざまずく。片手に傘を持って追いかけてきてくれたのか。


「風邪引きますよ、先輩」


 何一つ変わらない笑顔で、何一つ変わらない哀しみを漂わせながら、手を差し伸べるその瞳に、私はどう写っているのだろうか。


「……うん」 


 握った手の感触が、凍えるほど冷たいことに胸が震えた。

 劣化していく剛悪の罪科に、私は今日も心痛める。

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