第47話 雨月

 ――月の光の中にいた。

 目が覚めた時、微かに雛菊の匂いを感じた。

 ユリウスに抱きかかえられていたリーンハルトは知っていた。ここにハインリヒがいない事を。

 それが孤独の証左となりえず殊更になお繋ぎとめようとする截然たる絆になっているとしたら。

 自らが望んだ棺に、眠る夜はまだ訪れない。


 口の中には香ばしい味が残っていた。

 誰かがルーペルトの血を持ち帰ったのを知っている。或いは解毒の術を知り得たとしても、それは意味を成さぬ物の筈だった。

 自分の身体の事は自分が一番よく分かると考えていた。どんな名医でも終わった命は戻せない。


 ただ、最期に珈琲を口にした。最期に、眠る前に。

 あれを飲むと、寝付きが悪くなる。





 ユリウスは顔を伏せていた。リーンハルトの覚醒に気が付いていない。

 どう声をかけるべきか悩んだが、悩み続けるのも悪くないと思いそのままでいた。

 泣いているであろう彼女が、泣き止むまでずっと。

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