第43話 朗月
幾日か遡り。
在りし日の会議のとき。
「他になにか言う事はある?」
セヴェーロがそう訊いて、
「ありません」
ヴィルフリートが答え、
「私もです」
リーンハルトが続く。
エルンストは立ち上がり、療養室を出て行った。
ユリウスも立ち上がった。リーンハルトの食事の用意をしなければならない。
「ユーリィ」
呼び止められた。ヴィルフリートだった。
「もう、慣れました?」
「さすがに、もう騎士の生活には慣れました」
「そうなんだ」
言ったのはセヴェーロ。
「ユーリィって呼ばれるのも慣れたみたいだね」
「それは……! まだ、ですけど……」
とは言うが、自然と受け入れている自分にも気がついている。
「ねえユーリィ、珈琲入れてよ」
「え? 珈琲?」
「リーンから聞いたよ。美味しいってさ」
「別にいいですけど……今、ですか?」
療養室から自分の部屋までは少し距離がある。
と、
「じゃあ、僕が道具取ってきますよ」
そう言って、ヴィルフリートが走って行った。止める間もなかった。
「ユーリィ」
今度は、リーンハルトに呼ばれた。
セヴェーロやヴィルフリートよりも、リーンハルトに“ユーリィ”と呼ばれるのはまだ若干の違和感が残る。
だけど、嫌なわけじゃない。
「貴方にはこれからも、ずっと騎士でいてほしい」
「……? もちろん、そのつもりです」
何故、そんな事を言うのか。ユリウスは今、騎士隊から抜ける事などは欠片も考えていない。
「そうか。ならいいんだ」
少しして、ヴィルフリートが戻ってきた。
それからエルンストも戻ってきた。リーンハルトの食事を持ってきてくれた。
ユリウスが珈琲を入れて振る舞うと、みんな「美味しい」と言ってくれた。
「ユーリィ」
もう一度、リーンハルトが名前を呼んだ。
「ハインリヒの珈琲も、同じ味だったよ」
ユリウスが顔を向けると、リーンハルトは柔らかく微笑み、そしてユリウスの頭に手を置いた。
「……?」
それから、かき乱すように頭を撫で回した。
騎士隊を抜ける事など考えている筈がない。
ずっと、この時が続けばいいとさえ思っている。
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