第39話 死路

「……それにここで騎士隊が死ぬば、王は殺せる」

 ルーペルトは剣を抜き、鞘を投げ捨てながら言葉を続けた。剣はレイピアではなく、巨大なツーハンデッドソード。

「王さえ死ねば、バーデがファルイシアを支配できる……。大陸の統一が可能になる……」

「王が邪魔だっていうのか?」

「あんただって、昔そう言っていた……」

「今は違う」

 セヴェーロは剣を構えた。

「王は俺だ」

「だったら、より手っ取り早い……千二百年続いた騎士隊とファルイシアを、ここで壊せる……ここで……――」


 ――積み木の城を、崩すような快楽を。


 六人の男たちが一斉に斬りかかった。セヴェーロは一歩引いて、両手の剣で受け流す。が、僅かに圧された。

(太刀筋重く鋭い……精鋭を残してやがったな)

 セヴェーロは思った。

 去来する感傷もなしに、ルーペルトの本気の想いを感じ取った。

「ヴィル!」

 呼ばれるまでもなくヴィルフリートは加勢に入っていたが、相手の六人は予想以上に手強い。数の差もあり苦戦している。

「選りすぐりの兵さ……麻薬で神経も鋭くしている。反応が段違いに速いだろう? これだけの人数がいれば、騎士隊に勝てる……そう思っている」

 ルーペルトは言う。だがユリウスの目には、そうは映らない。

 苦戦はするが、セヴェーロとヴィルフリートは負けない。時間はかかるかもしれないが敵の麻薬が切れるまでは耐え抜き、いつかは勝利する。二人の戦いを間近で見たユリウスにそう信じられる。倒すには、“六人”では足りないのである。

(だけど、もし……)

 もし、二人ほどではないにしても、“騎士隊と同等の強さ”を持った敵が一人でも増えれば――。

「……新入り」

 言葉に目を向ければ、ルーペルトはユリウスの眼前に迫っていた。


 ――瞬間。

(ここが岐路……)

 感じた。


 ユリウスはルーペルトの初太刀を弾く。

 侮られているのなら、心外だった。

(私がこの男を止めれなければ……騎士隊も、この国も……終わる!)

 足手まといは嫌だった。

 護られているのでは、騎士ではない。この場は、誇り高くなければ乗り切れない。


 ルーペルトは弾かれた勢いのまま、剣を高く掲げ、そして振り下ろす。

 ユリウスは剣で受け止めた。が、勢いを止められない。

「!」

 ルーペルトの太刀筋は、屋敷の屋根裏で見せたものとは違っていた。頭上から一息に振り下ろし、防御を破壊する。これが本来の剣筋なのだろう。天井の低い場所を選びレイピアを振るっていたのは、リーンハルトの剣筋を知った上での策略。

(いけない……!)

 ユリウスの剣は、隙を見て踏み込んで斬るスタイル。相性が悪い。

 剣撃に、ユリウスは圧されていった。

「……あんたにはなるべく、早く死んで欲しい。セヴェーロの死に様を見たいからね……」

「そんな事……!」

 ユリウスは、僅かながらも剣を弾き返す。

「出来る事ならこの手で斬りたいな……その前に死ななければいいが」

「貴方に、隊長を斬れるものか!」

「隊長? ……そうか、隊長はセヴェーロか……」

 剣がぶつかり合い、鍔迫り合いになる。力で圧されればユリウスは押し込まれ、足で踏ん張るのがやっとの状態。

「……“今”は……」

「!」


 ――今は?


 一瞬、力が抜けた。その瞬間にユリウスは床に倒された。

 すぐさまルーペルトは剣を掲げた。刹那に振り下ろすつもりだろう。

(……死ぬ)

 思った。自分の悪い癖であるとも。

 くだらない考えに囚われて、今すべき事に頭が回らない。

(……死ぬだけなら、まだいい)

 自分がルーペルトを抑えていなければ、状況は不利に陥り全滅もしかねない。

 命を捨ててでも、止める必要がある。






 ――城内。

 跳ね橋の前には万が一の事態に備えて数百の兵が集まっていたが、城内は対照的に静謐さの中にあった。

 療養室からは、リーンハルトの姿が消えていた。

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