第28話 静謐
「ヴィル」
王の元へ向かう廊下で、ヴィルフリートはセヴェーロに呼び止められた。
月は沈み、空は白み始めている。
「俺も行く」
セヴェーロの言葉に、ヴィルフリートは状況を理解した。ルーペルトの討伐に失敗した、と考えていいのだろう。
「はい……セヴィが行くのなら、陛下もお喜びになります」
社交辞令的にそう言うが、内心は酷く狼狽していた。態度に出さないのは性格的な理由でしかなかった。
二十分後に使いの者から、屋敷が焼け落ちた事が報告された。リーンハルトとユリウスの生死に関しては、確認は出来ていないという。
それでも、淡々とバーデ公国への出発の準備を進めた。連れて行く一般兵は二十四名の予定だったが、セヴェーロも率いる事になり四十名となった。これだけいれば、例え包囲され攻撃されたとしても、王を護りきり且つ相手に打撃を与えられる。
兵上がりのヴィルフリートと王族のセヴェーロには、兵団の指揮権がある。一般的に実力を知られているリーンハルトや古株のエルンストの指揮でも兵は従うが、法的な根拠はないため公式な出兵では率いない。
バーデ公国は、ファルイシアと比べれば新興の小国ではある。しかしここ数十年の間に、近隣の領邦を武力や奸策で併合し急速に勢力を増してきている。そんなバーデにとって、国境を接する大国ファルイシアは目の上の瘤のようなものなのだろう。そんな中で持ちかけてきた会談。ファルイシアとしては断りたかったが、それすらも侵攻の口実としかねない。
「俺には、あの王様がどうなろうがなんて知った事じゃない。だけど敵に好き勝手されるのは癪だ」
セヴェーロはそう言うが、ヴィルフリートはセヴェーロ自身すら捉えられていない彼の心境の変化に気づいていた。
「……そうですね。もう、仲間を失いたくはありませんから」
「生きてるだろうさ」
「……?」
その言葉は、ヴィルフリートには意外だった。二人が死んだと判断したからこそ、セヴェーロは会談に随伴する。そう考えていた。
「ルーペルトは逃げたさ。だけど俺は、ヴィルとユリウスが生きている前提で行動する。俺たちが王を護りきる、あいつらがルーペルトを討伐する。それで内憂は終いさ」
セヴェーロの言葉で、ヴィルフリートは自身でも気づかぬうちにあった胸中の迷いが消えた。
その心境の変化はしかし、セヴェーロは、気づいていた。
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