第27話 月花

 ――月見草が咲いた夜。


 兄は、窓からその花を見ていた。

 手に持った木のカップ。湯気が上っていた。

「いい匂いがする」

 香ばしい匂いに誘われて、ユリアーネは起き上がっていた。まだ、半分くらい夢の中にいた。

「ユリアーネ、寝ていなさい」

「……お兄ちゃんは?」

「ユリアーネが眠ったら、眠るよ」

 窓の外の月見草を、ユリアーネも見た。

 すると兄はユリアーネの頭を優しく撫でた。

 触れているのか、いないのか。そんな曖昧な感覚を思わせるような、しかし温もりははっきりと伝わる優しい手だった。

 ユリアーネは振り返った。ハインリヒは、穏やかに笑っていた。


 確かにその日、その時。

 兄は、そこで笑っていた――

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