第27話 月花
――月見草が咲いた夜。
兄は、窓からその花を見ていた。
手に持った木のカップ。湯気が上っていた。
「いい匂いがする」
香ばしい匂いに誘われて、ユリアーネは起き上がっていた。まだ、半分くらい夢の中にいた。
「ユリアーネ、寝ていなさい」
「……お兄ちゃんは?」
「ユリアーネが眠ったら、眠るよ」
窓の外の月見草を、ユリアーネも見た。
すると兄はユリアーネの頭を優しく撫でた。
触れているのか、いないのか。そんな曖昧な感覚を思わせるような、しかし温もりははっきりと伝わる優しい手だった。
ユリアーネは振り返った。ハインリヒは、穏やかに笑っていた。
確かにその日、その時。
兄は、そこで笑っていた――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます