第19話 ――Bruchstücke,Wilfried=Schwalbenschwanz

 ――その日。

 父が死んだと聞かされて、十歳のヴィルフリートには実感が湧かなかった。

「君の父君は誇り高き騎士でした」

 報告に来たのは数人の兵と、一人の騎士。

「味方を逃がすため、敵陣に一人立ち向かったのです」

 実感は、湧かないのに。

「君には嘘偽りなく語りますが、君の父君があえて死ぬ必要はなかったかもしれません」

 不思議と、涙は流れた。

「我々は敗走中でしたが、翻って敵を迎え討てば勝てた“かも”しれません。多大な犠牲と引き換えに」

 目の前にいる騎士が話している事が、自分は理解できているのか。

「そうなれば君の父君は、生き残れたかもしれません。しかし実際には、一人で残りました」

 父は、本当に帰ってこないのか。

「君はどう思いますか? どんなに無様でも、例え味方を犠牲にしてでも生きて帰ってきて、今日の君の誕生日を祝って欲しかったですか?」

 帰ってくると、約束していた。

「それでも君の父君は、死んででも仲間を逃がす事を選びました。自分の命も、君との約束も捨てて、仲間を逃したのです」


「君があの人の息子ならきっといつか分かる筈です。君の父君が命を賭した理由が……」

 やがてヴィルフリートは士官学校へ入り、飛び級で卒業後に騎士兵団に入り、そして志願して近衛騎士になった。その時、僅か十三歳。父譲りの天性にして神速の剣捌きは、騎士試験を数多く見てきた王すらも驚かせた。

 目標とした騎士は、ハインリヒ=バルヒエット。その日、父の死を告げに来た騎士。

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