第6話 幻月
――夢を見た
夢の中なら兄は生きていて いつもと変わらぬ笑顔で他愛のない話を繰り返す
でもそれは結局夢だから 自分は成長しないで十四歳のあの頃のまま
気づかないふりして話を続ける 伝えたい事はいくらでもある
自分よりも淡い赤髪 鮮やかな虹彩
記憶にいるのは確かに兄の筈なのに
“次はいつ帰ってくるの?”
と自分が訊けば
“すぐに帰ってくるよ”と
頭をなでて優しく言う
夢なのに 嘘だと気づいてしまう
嘘だと気づいているのに 待っている
夢なのだから 夢の中でくらい 帰ってきてくれてもいいのに
夢の中でいろんな話をした
でも結局は夢だから、昔した話を繰り返すだけ
兄が聞かせてくれた騎士の日々
城の生活はどうだとか
庭の花は今年も綺麗に咲いたかとか
フェスタで珍しい嗜好品を飲んだとか
優しく笑う兄につられて自分も笑う。
代わり映えしないくだらない話がただ嬉しくて こうしている事がただ幸せで
夢の中で 夢だと気づいていながら ずっと笑っていられた
目が覚めると、泣いていた。
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