第91話『次に勝つのは』
「じゃあまたなー、翔斗! 吉報待ってんぞー」
「地区大には行けないけど、応援してるからな」
惣丞と嶋谷の激励に、翔斗は顔を綻ばせる。
「はい! 先輩達も受験勉強頑張ってください!」
オマエ、嫌な事思い出させんなッ! と、去り行く惣丞の遠吠えを耳にしながら、翔斗は、近付いてきたそいつに気付いて顔を向ける。
「森、敵のたまり場に何しに来た?」
と、訝しげに言うが、千宏は翔斗を見たまま無言だ。
え、何こいつ怖い……報復? と近くに誰かいたら思われそうだ。
何も言ってこない千宏を不審がり、少し身構える翔斗に、徐に左手を差し出してきた。
「え……」
翔斗が目を瞬かせると、千宏はようやくポツリと口を開く。
「……優勝、オメデト」
翔斗は驚愕した。
「オマエ……」
こいつは本当に森なのか? と心配になるが、いつまでも差し出された手を放っておく程、野暮ではない。
「……ありがと」
と言いながら、翔斗が握った瞬間だった。
ギュゥゥゥゥゥッ! という効果音が聞こえる勢いで、千宏はバカみたいに握力を込めた。
「!! てっめ!」
つい口が悪くなりながら、即座に翔斗は振り解く。
「アッハハハハハ! 騙されてやんの、うっけるー。俺がオマエに握手求めるワケねーだろ!」
大爆笑でビシッと指を指され、
「いいか! 今日は全っ然、本気出してねーかんなッ。こんなんで勝った気になんなよ!」
千宏の負け惜しみである。
「へぇー? 俺は全力で勝ちにいったから、オマエが本気出してようとなかろうと、どっちでも良いんだけど」
「うるっせー! とにかく、次に勝つのはこの俺だッ」
「へぇへぇ、口先だけはもう聞き飽きたし」
両者、交わる視線にバチバチと火花が飛ぶ。そこへ、
「ストーップ、そこまで」
と、間に割り入ってきたのは三葉だ。
「三葉……!」
「ゲッ、葵、何故ここにッ!」
「『何故』じゃないわよ、
グイッと、千宏が肩に掛けているショルダーバッグの紐を、三葉は引っ張りながら、
「翔斗、悪かったわね。このバカがきっと何かしたんでしょ、謝るわ」
「勝手に決めつけんなッ! そして引っ張んな!」
「まぁ、今に始まった事じゃねぇから。
「テメーも何涼しい顔してんだよッ!」
「あ、そうだ。ねぇ、さっき桜ちゃん見かけたんだけど、金髪ギャルと話してるみたいで、挨拶遠慮しといたの。あの子にも、ヨロシク伝えといてよ」
「金髪ギャル?」
何だそれ、と翔斗は眉を顰める。
「それから……優勝、おめでとう」
「あぁ、サンキュ」
「でも次に勝つのは
三葉はキッとして言った。
「……その下りはオマエらのデフォなのか?」
明くる日、万理は爪先立ちになって後ろ手を組み、校内の掲示板に張り出された学校新聞を見上げていた。
「県のトップに立ったってのに、なーんか地味な内容よね」
昨日の野球部秋季大会の事が載っているが、どうやら気に入らないらしい。
「だいたい、宮辺くんの活躍ばっかり書いてあって、女子に媚び売ってるのが見え見えなのよっ。昨日は、武っちのホームランを主軸に置くべきだわ」
などと、一人でブツブツと文句を垂れていると、
「そこのキミ、我が広報委員会の記事に何か言いたいようだね?」
インテリと言わんばかりのメガネ男子が、万理を見下げて現れる。
「広報委員長さん。いえ、委員会の記事とは思えない程、内容がアレでしたので。ちょっとビックリしてしまいまして」
ニッコリと微笑む万理。広報委員長はメガネをクイッと上げて、
「野球部はそもそも、情報に制約がある為あまり大っぴらには書けないのだよ。これだから素人は全く……」
「へぇ? 生温い言い訳ですね。それでも私なら、もっと良い原稿は書けますよ」
「ほー、言ったな? では今度の地区大会、是非ともキミに書いてもらおうじゃないか」
「……別に良いですけど、それって私に
「ふむ。聞こう、要求は何だ?」
「もし、私の記事が好評だったら……広報委員会の預かりで放送部を設けてください」
「廃部になった放送部を? そもそも部活動は、主たる活動部員二人以上が必要だと生徒会で決まっているが?」
「知ってます。だから、広報委員会預かりにして欲しいんです。そうすれば部ではなく、委員会の派生として活動は認められるハズでしょ?」
「……良いだろう。そこまで言うのなら、その要求を呑もう」
「言質は取りましたからね。忘れないでください」
くるりと踵を返す万理の後ろ姿を眺めながら、広報委員長は腹の内でほくそ笑んだ。
なんたる好都合……! 実は委員会で新聞制作を得意とする者がおらず、ほとほと困っていたところなのだよっ。おまけに面倒な
クックッと広報委員長はメガネを上げる。
……あの女が使えそうなら儲け物だ。なぁに、大した事なければ土下座させて二度と生意気な口を効かせなければ良い話っ。
「どっちに転んでも勝ち案件!」
ハッハッハッと声高らかに笑う広報委員長を、周りの生徒はかなり
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