第45話『先輩たちの援護』
古賀学園戦で苦しめられたのはなんだったのだろうかという程、四回戦──
しかし! どんな点差になろうとどうなるのか分からないのが高校野球!
とか言ってたら嶋谷がタイムリーを放ち、北条は更に二点を加え大きく突き放す。
こ、このイニングだけでもう八得点……。
鉛筆を持つ桜の手がプルプルと震えているのは、喜びから来る武者震いである。
「まだまだだ!」
「気ぃ抜くな!!」
「取れる時に取るぞー!」
ベンチ陣も声援に熱が入っている。すると、無事にホームに帰還し、得点に貢献した翔斗が戻ってきた。
「上出来だバカヤロー!」
「やればできるじゃねぇか!」
「普段からそれぐらい打て!」
……容赦のない野次が飛ぶ。翔斗は頭をポリポリ掻きながら、
「集中! 集中!」
と、次の打者へ声援を送る。
そんな様子を見て、桜はニコッとえくぼを覗かせた。
「おい宮辺、伝説はどうした伝説は」
冷静に田城からツッコまれ、ぐっ……と声を漏らす。
「初回三人で抑えたのは良かったが次の回で四死球出しまくって満塁、動揺でホームラン。更にはさっきの回でも暴投で無駄に点数を与える……」
淡々と痛いところを指摘され、宮辺は遥か遠くを眺める。
「オマエな、強打線相手でもないのに三イニングで五失点て……そういう伝説はいらないぞ」
普段はどんなにミスしても優しいが、言う時は小姑のようになるのが田城だ。分かりやすく不貞腐れる宮辺に、ハァーと珍しく溜息まで漏らすと、
「打線がオマエを楽にさせるつもりで援護してくれたんだ。十点差、キッチリ守ってこいよ」
宮辺の頭に帽子を被せ、送り出した。
それが効いたかどうか分からないが、四回表を三者凡退で抑え、裏の回では上級生達の猛打で更に二点をプレゼントされる。
そして迎えた五回──ここを二失点までで食い止められたらコールド成立となる。
けど……。
宮辺はギュッとボールを握る。
もう一点も、与えてたまるか……!
所変わってスタンド席にて──。
「五対十七の五回コールド勝ちか。これまでの北条の守り、どう思う?」
サングラスを掛けた男は、隣でメモを取る男子学生に尋ねる。
「はい。今日登板した宮辺は一年生にしては度胸がありますし、コースの投げ分けが上手いと思います。けど今日みたいに謎に自滅したり、窪川戦では立ち上がりが悪かったりと所々ムラが目立ちます。狙うならそこかと」
スラスラと言葉を紡ぐ。
「それより今回登板のなかったエースの岩鞍ですが、前回あまり持ち味を出せずに降板したのが個人的に気になります。打線との相性が悪かったのか、調子が悪かったのか……」
「もしくは故障の可能性、とか? どちらにしろ隙はありそうだな」
ニッと笑うと、「あの一年の遊撃手はどうだ?」
「えっ? えっと、佐久間……ですか。そうですね、守備に関しては正直一年とは思えない程です。打球の読み、身のこなし、スローイングも良い。今大会エラーがまだ一つもありません」
チクショウ出来るショートだな、と男子学生は心の中で毒を吐く。
「……足で揺さぶってみたり何か工夫が必要だな。全体的な打撃に関しては前回とほぼ同じ」
「そう思います。主にキーとなるのが嶋谷、惣丞、大貫……ここを打ち取りチャンスを作らせなければ然程脅威にならないはずです。今日は他の打線も繋がったのがビッグイニングに結びついたんでしょう」
男は頷き、
「この分ならうちにも充分勝ち目はある」
と、サングラスを少しズラす。
「岡田コーチのおかげです。弱体化していた
「おっと、まだお礼を言われるのは早いな。本番はこれからだよ」
岡田と呼ばれた男は、軽くウインクしてみせる。
「はい……! よろしくお願いします!」
感激した様子で、男子学生は頭を下げた。
「あ、そういえば私ったら……」
三葉は思わず声を漏らす。こちらも夏休みに入り、秋季大会で頂点を取るべく全力練習する部員達を、全力サポート中だ。
「どったの、葵ちゃん?」
同じくマネージャーの加菜が、のほんと聞いた。
「あっ……ごめん、独り言」
思った事がそのまま口に出てしまい、照れ笑いをする。
珍しいー葵ちゃんが独り言なんて、と言うがあまり気に留めていない様子だ。
この間、あの子にあんな場面見られて、つい翔斗に伝え忘れてたけど……。
まさか今頃になって思い出すなんて、と三葉は頬に手を当てた。
輝にぃが箕曽園のコーチに新しく就任してた事、翔斗はまだ知らないのかしら?
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