第20話『対決』

 練習試合が始まり、北条は守備からのスタートとなる。

 桜が守備メンバーの紹介をアナウンスすると、

「おい、あのショート一年だろ?」

「マジ? 一年よこしてくるとは嘗めてんな」

「いや、あいつ中体連で守護神って呼ばれてましたよ。そこらの一年生とレベルが違うっす」

 白付のベンチではそんな会話が繰り広げられている。

「まぁ、いくら守護神たって所詮は一年だろ?」

 そう言うと千宏は思い切り伸びをし、

「相手にもなんねーよ」

「……オマエだって一年じゃん」

 とツッコまれる。

「森は前の試合いなかったから知らないだけだよ。守護神の凄さを……」

 それを千宏は鼻でフンッと笑うと、

「さてと。俺は桜の可愛いアナウンスでも聞いてよっと♪」

 そうだオマエ、あの子とどういう関係なんだよー! とチームメイトが問い詰めるのを無視した。


「さすが桜ちゃん、良い声してるなー!」

 ベンチにいる武下は、アナウンスに聞き惚れて言った。

「なんだよあのセクハラ野郎、スタメンじゃねぇのか!」

「これじゃフルボッコにできねーじゃん!」

 先程の桜に対するハグ事件で、すっかり千宏は北条の仇とされている。

「おい武下! あいつ一年生らしいけど何か知ってるか?」

 殺気立たせながら上級生の一人が聞く。

「それが、四月の交流戦でもいなかったですし、中学でも見た事ないんすよ」

「ふん、やっぱ大したことない奴なんだな!」

 そうと分かると愉快そうに上級生達は笑う。

 だと良いんだけど……。

 武下は自分で言っておきながら、何か引っ掛かる物を感じていた。


 北条の守りは堅い。ピッチャーの岩鞍が三振を立て続けに取り、あっという間にスリーアウトとなる。

「すっげぇ! 岩鞍先輩絶好調だな!」

「今日も完封するんじゃねぇの」

「向かうところ敵なしって感じ!」

 二年生達が歓喜の声を上げ、ベンチに戻ってきたナインをハイタッチで迎える。

「オマエの出番、今日はないかもな」

 隣に腰掛ける翔斗に、武下は冗談混じりで言った。

「あぁ。さすが岩鞍先輩だよな!」

 そんな人と一緒にプレーできるなんて、と翔斗は喜びを隠しきれない。

「そういえば佐久間、あの森って奴、前に見た事あるか?」

「いや? 今日が初めてだけど、なんで?」

「さっき先輩から聞かれてさ。俺も見た事ないんだけど、なーんか引っ掛かるんだよな……」

 と、腕を組む。

「昔対戦した学校の奴で忘れてるだけなんじゃねーの?」

「でもさ、白付に入れるぐらいの実力者って事だろ? 中学でそんな奴いたら忘れねぇよ」

 今度は頬杖をつき考えこむ。

「あとで桜に聞いてみたら? 何か分かるんじゃない?」

 そいつとエラく仲が良いみたいだし、翔斗は心の中で思う。

「まぁそうなんだけどさー」

 何とも煮え切らない返答をする武下だった。


 どちらも点を与えず試合は四回表となり、ここで初めて岩鞍は投球を打たれる。

「っしゃー! よく打った!」

「抜けろ抜けろー!」

 と白付が沸き立ったのも束の間、高速打線をダイビングキャッチされてしまう。

 翔斗だ。

 しかしファーストへ素早く送球するも、すんでのところで打者は一塁へと滑り込んだ。

「よし! ようやく出塁!」

「それにしてもなんて奴だあの一年!」

「取られてなければ二塁まで余裕だったのになー!」

 今度はどよめきの声が白付のベンチで飛び交う。

「ほらな森! 俺の言った通りだろ!」

 チームメイトが何故かドヤ顔で言ってくる。千宏は何も答えず、じっと翔斗を見た。

「森、準備をしろ」

 監督に声を掛けられると、千宏はニヤッとして、

「はい!」

 と返事をした。

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