第4話『まさかの再会』

 野球部の練習場に着くと、翔斗は只々感激していた。

 早くも練習風景を実際に見せてくれるなんて、監督は優しいなと思っていると、当の本人に呼ばれる。

「部室を整理してこい。来週からオマエ達も使えるように」

 とだけ言われ、翔斗は部室へと向かった。


 意外な指示に少し驚いたが、部室のドアを開けると、もっと驚いたのだった。

「ウソだろ……」

 思わず声が出る程、室内は散らかっていた。

「な、すげーよな」

 後ろから声が聞こえ翔斗は振り返ると、

「オマエ、武下……」

「よぅ。まさか入部前にまた会うとは思わなかったぜ」

 昨日会ったばかりの武下とで再会するとは、翔斗だって露にも思わない。

「オマエ何してるんだ?」

 と、翔斗は眉をひそめる。しかもよく見ると、武下は手にゴミ箱を持っていた。

「それがさ、一足早く練習風景見せて貰おうと頼みに来たら、替わりに部室の掃除頼まれてな。佐久間もか?」

「あぁ。監督に呼ばれて来たら、オマエと同じ事言われた。はめられたな?」

 と言うと、互いに笑い合った。

「オッケー! 二人でやった方が早く終わる。とっとと、やっちまおうぜ。」

 武下は翔斗の肩を叩くと、

「よし!」

 翔斗はやる気を出し始めた。


「それにしても……」

 翔斗は箒で床を掃きながら、「なんでこの部室こんなに散らかってるんだ?」

 と、室内を見渡して言った。更衣室も兼ねている部室は、壁側にロッカーが並んでおり中央に長テーブルが二個、その正面にモニターが置いてある。おそらくミーティングもこの部室で行われるのだろう。広さはあるが、いかんせん荒れている。

「あぁ、今マネージャーが所属してなくて片付ける奴がいないんだよ」

 と、武下は答える。

「え、マジで?」

「今までいたマネージャーはこないだ卒業したからな。その下の代は育たなかったみたいだし」

「育たなかった?」

「そっ。皆夏休みを境に辞めていったんだと。まぁ、あの鬼監督相手じゃ女子も逃げたくなるよな」

「ていうか、武下やけに詳しいな」

「ふっ、情報通の俺を嘗めるなよ」

 ドヤ顔をするのを翔斗はスルーして、

「まぁそれは良いとして、マネージャーいないと今後大変だよな」

「だよなー。まさか雑用全部、俺達新入生にさせるつもりじゃないだろうし……」

 武下は軽く溜息をつき、

「あー! どっかに、監督の下でも働ける可愛いマネージャーいねぇかなー!」

 と、伸びをした。

 「可愛い」はオマエの願望だろ、と翔斗は内心思いつつ、心当たりが一人いる事にふと気付く。その様子に目ざとく気付いた武下は、

「お、もしかして心当たりでもいるのか? 紹介しろよー!」

 と、目を輝かせている。

「オマエ、マネージャーってより単に親しくなりたいだけだろ?」

 呆れた声で翔斗は言った。


 結局部室を片付けた後も、ファールボールの回収や草むしり等、雑用事を指示され一日が終わった──。

「あぁー、クタクタだぜ。野球の練習より疲れた……」

 帰り道を、翔斗と歩きながら武下はゲッソリと言った。

「まぁおかげで、先輩達に顔と名前覚えて貰えたから良かったじゃん」

 翔斗は、あっけらかんとしている。

「……ほんっと佐久間はポジティブだよな」

「そうか?」

 すると、

「あれ、翔斗くん?」

 聞き覚えのある声がした。

 翔斗は目をやると、そこにいたのは桜だった。

「いま部活の帰り?」

 と、えくぼを見せる。

「あぁ。桜は?」

「お母さんにお買い物頼まれて。そこのスーパーに行くところー。今晩はすき焼きだよ♪」

「お! いいねぇー」

 翔斗は嬉しそうに言った。

「じゃ、お肉売り切れちゃうといけないから私行くね」

 と言うと、「失礼します」と武下を見てお辞儀をした。

 桜が去って行くのを見届けると、

「おい佐久間! 誰だよあの子?!」

 必死に翔斗に詰め寄る。

「……居候中の監督ん家の娘さんだよ」

 翔斗は武下の形相に少々圧倒される。

「マジか、あの監督の娘とは思えねぇ! 同い年の子がいる事は知ってたけど……あんなに可愛いなんて! オマエ、卑怯だぞー!」

物凄い剣幕である。

「なにが卑怯だよ、意味わかんねぇ」

 翔斗が呆れながら言うと、武下はそれを無視して、

「桜ちゃんって言ったっけ? 彼氏いるのかな。なぁ紹介しろよー」

 と、肘でツンツンとつつく。

「知らねぇよ。テメーで頑張れ」

 こいつには絶対紹介したくない、と思いながら翔斗はスタスタと歩いていった。

「そんな冷たい事言うなよー!」

 武下の声が、薄暗い空に響き渡った。

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