SEASON1
球児、美少女と出会う。
第1話『ショートの佐久間』
「ここが来週から通う高校かぁ!」
佐久間
念願だった、野球強豪校の
小学生の頃にテレビで見た甲子園に憧れて、野球を始めた口だが、意外とセンスは良かった。自分もいずれは甲子園の土を踏みたい、その一心だけで野球を続けてきた。
県立北条高校はこれまで甲子園に通算三十八回出場し、内二回の全国制覇経験のある、高校野球界では名の知れた学校である。その為、北条高校に憧れを抱いている球児は少なくない。もれなく翔斗もその一人であった。
それが来週からは、ここで甲子園の夢を追えるとだけあって、喜びもひとしおだ。
「よっし……! 目指せ、甲子園だ!!」
人目もくれず翔斗は叫んだ。すると後ろから声が聞こえてきた。
「バーカ、その前にレギュラー入りしろってんだ」
翔斗は振り返ると、見知らぬ男子学生が立っていた。
「まぁもっとも、オマエみたいな奴にレギュラーが取れたらの話だけどな」
翔斗を見ながらニヤついた表情をしている。いかにもチャラそうなヘビっぽい顔だ。
「誰だ? オマエ」
「そう睨むなよ。俺もオマエと同じく、来週からそのグラウンドで白球を追いかける仲間なんだからよー」
と、ヘビ顔チャラ男はニヤついた表情は崩さずに、
「俺、
「佐久間翔斗」
すると、先程までニヤついていた表情が崩れ、
「佐久間……翔斗? もしかして、若鷹中学の佐久間か?!」
と、武下の声が上擦った。
「そうだよ。なんか悪いか?」
翔斗はジロリと見る。
「そうか、どこかで見た顔だと思ったら……。中体連で影の守護神と恐れられ、若鷹中学を初の優勝へと導いた一任者……ショートの佐久間がオマエだとはな」
ニヤリと笑うと、
「まさか一緒にプレーできるとは思わなかったぜ」
と、右手を差し出してきた。
翔斗はそれを一瞥すると、ガッチリ握手をした。
「しっかし、若鷹中学のオマエが北条高校に来るとは思わなかったよ」
武下は、翔斗と並び歩きながら言うと、
「若鷹中って言ったら山奥だもんなー。何時間かけて通学するんだ? それとも引っ越してきたのか?」
と、続けて尋ねる。すると翔斗は、
「あぁ。それが、今日から下宿する事になったんだよ」
と答えると、「ここ」と立ち止まった。
一軒家の表札には「早乙女」と書かれてあった。
「おい、ここって……北条高校野球部の監督ん家じゃん」
地元では有名である。武下もこの地域が地元なので、もちろん知っていた。
「そう。あの高校って寮がないだろ? 通学ってーより、野球の練習に不便だろうからって声かけられたんだ」
「マジかよ?! あの鬼監督の所で暮らすなんて……オマエ、すげぇな」
武下は目を見開いた。
「おい、聞こえるぞ……」
翔斗は声をひそめ、
「まぁでも、監督さんの家族も住んでるから別に付きっきりじゃないし良いんじゃねーの?」
至って楽観的である。
「オマエ、羨ましい性格してるな……」
呆れたように言うと、武下は「じゃあな」と去って行った。
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