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「これ、綺麗だね。」
千綾はガラスケースの指輪を見ながら言った。
その日、巧と千綾はデパートでブラブラとしていた。
「珍しい色の石だな。」
巧はさして興味はなかったが、深みのある菫色に珍しさを感じていると、
「そちらは、アイオライトをあしらったものでございます。」
と、販売員がやってきた。
「アイオライト?」
初めて聞くその名に、千綾は尋ねる。
「はい。アイオライトは、迷うことなく夢や目標に到達するための道しるべになってくれる石と言われております。」
「へー!」
千綾は目を輝かせながら聞き入る。
「ヨーロッパでは昔、両親から娘へ幸せになってほしいとの願いを込めて、アイオライトを贈りものとしたそうです。年頃の娘が、迷わず真実の愛と出会い、幸せな結婚ができるようにとの願いを、石に託したとされています。こうした言い伝えから、アイオライトは『結婚へ導く石』とも言われているんですよ。」
と、販売員はにこやかに話すと、
「なのでこの指輪を、プロポーズに使われる男性も増えてきています。」
巧の方を向いて付け加えた。
「素敵…!」
千綾は感激すると、「鈴屋くん、よろしくね。」
と、冗談交じりに言った。
「バ、バカ!なに言ってんだよ…」
「ちょっと、照れないでよ。」
アハハと楽しそうに千綾は笑う。
―この笑顔をずっと見ていたい…
内心そう思うと、巧はもう一度、その指輪を眺めた。
*****
―なぜ、あの時素直に伝えてあげられなかったんだろう。
あの時指輪をあげていたら、少しは違った未来になっていたのかもしれない…
二人で指輪を見た数日後に、巧はバイト代を握りしめて指輪をこっそりと買いに行った。
千綾が卒業をしたら、薬指に予約をしておこうと思っていたのだ。
しかし、その卒業の日に指輪が渡される事はなかった。
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