第6話

「僕はずっと自分のことをCランクだって思ってる。だからAランクの倉本とこうやって話すことなんてないって思ってた。……こんな考え、怒るよね」


 倉本は僕の話を聞いている間に、ソフトクリームのコーン部分を平らげていた。

 ちゃっかり麦茶のペットボトルを二つ用意していて、一つを僕にくれた。


「何から何までごめん。ごちそうさま」

「ううん、綺麗なアレンジメントを作ってくれたお礼だよ。いい子ちゃん的意見を言うと、人をランク付けするのってよくないけれど、でも……少しわかる気がする」

「え? 倉本が?」

「うん。私がずっと笑顔でいようとしたのは、たぶん、松波くんのいうAランクになろうとしたからだと思うの。優等生になって、お母さんに心配をかけたくなかった。だから……私は偽物のAランクなのかも」

「いや、そんなことないけど、でも……僕は君を表面的にしかみていなかったのかもしれない」


 僕がAランクだと思っている人は、自分をいい風に見せるための努力をしているのかもしれない。すべてが順調にいっているように見えるけれど、みんな何かしら悩みを抱えているのかもしれない。

 そんなことも知らずに僕は、ただきらきら輝いている人たちを羨ましく感じていた。

 自分で自分を見限って、楽な方向に逃げていたんだと思う。

 倉本とこうやって話をしなかったら、何も気づかずに生きていたのかもしれない。


「松波くんは自分のことをCランクっていうけど、そんなことないと思うよ」

「いいよ、フォローなんてしなくても」

「本当だよ? だって、あんなにきれいなお花のアレンジができるんだもの。お花の扱い方とか、花言葉とかにも詳しいんでしょ?」

「まぁ、そりゃそれなりに知っているけど……モテないから使いどころがないよ」

「ふふ、そうなの?」

「そうだよ」


 小さな公園だから、街灯は端っこに一つしかない。だから彼女の顔があまりよく見えなかったけれど、自然な笑顔を向けてくれていたような気がする。

 気のせいかもしれないけれど、素の倉本を垣間見られたような気がしてうれしかった。


「……夜も遅くなってきたし、そろそろ帰ったほうがいいかも。ここにはどうやって来たの?」

「ほんとだ、もう真っ暗だね。ここへは電車で来たよ。家方面は本数が少ないからすごく不便なの」

「そっか。……よかったら、駅まで送るよ」

「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えようかな」


 駅まで送るなんて、こんなイケメンな台詞を口にする日がくるなんて思わなかった。

 彼女がうちに花を買いにきてから、こんなことばっかりだ。これからも、倉本と話す機会が増えていくにつれ、また新しい何かが起こるのかもしれない。

 学校で普通に話せるとは思わないけど、せめて夏休みの間は、また倉本と一緒の時間が過ごせると期待していいのだろうか。

 そんなことを考えながら、倉本の隣を歩いていた。


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