Ⅱ.混ざり合う夢と現
20.紫水晶の導き
私の求める人、それは自分よりも強い人間。私よりもナイフを使うのが上手で、簡単に私を刺してくれそうな……そんな人。そんな人がどうやら、盾娘の元にいるらしい。まぁ……私が言うのもあれかもしれないが、彼女は変わりものだ。いつものように、見透かしたような発言を楽しくしていただけだろう。
『でも、その人はすごくお姉さんにそっくりだったのよ』
ふと、盾娘が言っていた言葉が横切る。あの後、盾娘はそろそろ帰ると言って家に帰って行った。送ろうか、と言ったがすぐ傍だからと言って彼女は一人で帰った。私は真顔でそう答えた彼女の言葉がまだ、頭から離れなかった。
「……まさか」
『でも、お姉さんみたいな長身で黒髪の人ってあまりどころか、ほとんどいないわよ。親族じゃなくても、見覚えはあるんじゃない?』
私の中で一人の人物の顔が横切った。黒ずくめの……私が追い求める『あの人』。私を打ち負かす、あの人……
「まさか……まさか、な」
あの人が、あんな少女の傍にいるだなんて。それに、あの人の傍にいたら……
「……生き残れるなんて事、出来るはずが無い」
* * *
「私が目覚めたタイミング、それは霧の力で昏睡させられてしまった後だと考える。そうすると……あの後、私にヴィンセントが感情を露にするはず。その後に私はあのナイフを託した……でも、あいつは……」
私は、セリカの宝玉の力で傷を塞いでもらった後、メイドの仕事に戻った。今はリリアナと廊下の窓掃除……ここも夢で見た同じ光景。ただ、私はこの口調に違和感を一切抱かないリリアナと反比例して違和感を募らせる。少なくとも、彼女の前ではいつも敬語でいたからだ。
「ノアちゃん、まだ無理しなくて良いんだよ?」
「…………」
「手も全く動いてないし……ほ、本当に大丈夫? 私、心配だよ」
「……リリアナ」
「う、うん!?」
私が彼女の顔を見ながら名前を呼ぶと、驚きながら返事を返してくれる。紫色の丸く大きな瞳が、私を見つめていた。
「私の喋り方に違和感を抱いてないか?」
そう私が尋ねると、リリアナはきょとんとした表情を見せた。そしていつものように、にっこりとほほ笑む。
「うん、いつものノアちゃんだよ。あれだけ昏睡してたから、おかしくなってないか心配だったんだよ!」
「そうだったのか……ありがとう。」
再び、私は彼女から目を逸らし窓ガラスに映る自分と向き合う。悩み苦しむ、感情を露わにした女の顔が映っている。表情を作らない事は得意だったのに、納得できない状況下に落とされて簡単に表情が出てしまっていた。
「……私は、敬語など使っていなかった。そして、周りの人たちと打ち解けている。色々と状況が変わりすぎている、でも顔ぶれは皆同じ……」
「ノアちゃん……本当に休んだ方が良いよ。ちょうど、今はセリちゃんも家にいるし……少し診てもらった方が良いって、霧の影響が残ってるかもしれない」
そう言ってリリアナは私の背中を擦る。大丈夫だ、そう言って手を離させるが彼女はそれに逆らって、私の背から手を離そうとしない。
「は、離してくれ……大丈夫だから」
「ノアちゃんは無理する癖があるでしょ! だからもう、問答無用で連れて行きます!」
そう言って、リリアナは私を軽々と持ち上げて部屋目掛けて歩き出す。普段からあのお嬢様が荷物をあれだけ持たせてるせいで……この歳でお姫様抱っこをされても抗うことが出来ない。
「い、良いから離してくれ! この歳でお姫様抱っこはさすがに……」
「言うことを素直に聞かない罰だよ!!」
その後も、抗うことなど許されず私は自室へと運ばれて行った……。
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