15.家族と血縁
「『死者の祭り』って……」
「明日のイベントの名前ですよ、新米メイドさん」
「というかミュレ……お前、料理人に転職したのか?」
パールパープルの髪を耳にかけながら、ミュレは小さく微笑み首を縦に振った。そしてコックコートのポケットから小さく折りたたまれた紙を取り出し、ペラペラとこちらへ振って見せてきた。
「……お嬢様へ、ご主人様からお手紙です。執事のあなたが届けてください」
そう言ってミュレは窓の隙間から、紙を広げてこちらへ渡してきた。セリカの兄から……それならさすがにあいつに届けないといけないからな……そう思いながら紙を受け取ろうとすると、後ろからノアがそれをバッと奪い取った。
「の、ノア……!?」
「…………」
「……相当、非常識なのですね。主への手紙を勝手に読むなど」
「あなたには関係ないでしょう」
そう言ってノアはミュレを睨みつけ、再び手紙を読み始める。ミュレはシルバーフレームの眼鏡を直しながら、少し不満そうな表情を浮かべる。だが、ノアはそんなことに臆しない。
「……貴族とは思えない文章ですね。妹に喧嘩を売る、ただの子供の文章です。」
「それじゃあ、私は仕事を果たしたので帰ります。明日、楽しみにしていますよ」
そう言ってミュレは北の館へと歩いて行った。彼女が去ったのを見ると、ノアは手紙を俺に押し付けて静かに歩き始めた。
「ま、待て! ノア! 話は……」
「……私は、先にあの館へと向かってルナを探します。嫌な未来が見えます……」
そう言ってノアは窓を開け、庭に飛び出した。俺が止めるのも聞かず、彼女は暗殺者仕込みの俊足で北へと走って行った。
「あいつは……いつも何を考えているんだ」
* *
翌朝、俺たちは予定通り『霧の洋館』へと向かっていた。道が平坦だから良いものの、この濃霧は何回通っても慣れないものだった。しかも今回は、セリカがノアとなるべく早く合流すると言いだしたため、まだ朝日が顔を出したばかりの早朝だった。でも朝まで戻ってこなかったノアを、さすがに皆心配していたらしくその意見には同意した。
「日の出を迎えたとはいえ、まだ暗いですね。セリちゃん、足元気をつけてください」
「そうね……慣れない服だし気をつけるわ」
「……ギル、昨日どうして彼女が来たのですか」
「セリカに手紙を届けに来たんだ。あと、なぜか料理人に転職していたな」
「料理人ですか」
俺とヴィンは、セリカの後ろで護衛をしながら昨日のミュレの話をしていた。かつては彼も大アストイルの召使だったため、彼女の事は知っていた。
「相変わらず、彼に執着しているんですね。だから良いように使われるんですが……あの人の事は苦手ですよ、何を考えているのかわからないので」
「そういえばそうだったな。まぁ……キツい女性だしな」
「それもありますが……」
そう言いながら、ヴィンは少し俺から目を逸らす。何で言葉を濁す……そう言いかけた時、前のリアとセリカが急に立ち止まったため後ろの俺とヴィンは驚き、会話どころでは無くなった。
「ど、どうしたの、リア……?」
「これ……うちの護身用のシルバーナイフですよ。ノアちゃんのものじゃ……」
「ということはここで争いがあったのか?」
「……もうすぐ館に着くわ。ここで二手に分かれましょう」
そう言ってセリカは俺、ヴィン、リアの顔を交互に見た。そして真っ直ぐ、ヴィンを指差して……
「ヴィン、私と一緒に中まで来てちょうだい。ギルとリアは入り口付近で何かを見つけたら、教えてほしい。情報伝達はギルに任せる、こちらからも何かあれば連絡するわ」
「わかりました!」
「セリカ……大丈夫か? お前の兄貴の館だぞ……何があるか……」
俺はすぐに首を縦に振ったリアとは違い、すぐにその意見に賛成出来なかった。セリカの兄は……
「……お兄様のことは、私が一番知ってるから大丈夫よ」
そう言ってセリカは優しく微笑んだ。やっぱり考えを読まれていたか……何だかとても負けた気がして、思わず俺は手を上げてしまった。
「……わかったよ。その代わり、何かあったら必ず連絡しろ。ヴィン……」
…………俺の『妻』を守り抜いてくれ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます