相方の行方
16.境界の向こう
「……相変わらず、歓迎も無いのね。」
ヴィンセントとセリカは、ノアを探すため館へと足を踏み入れた。昨日……ヴィンセントの部屋の前で聞いた彼らの会話、彼女がいなくなったのはミュレが帰宅した後。手紙を読んだ後、ノアは飛び出しここへと向かってきた。ルナが危ない、そう言って。
「いつも通りで良いんじゃないですか。逆に歓迎があったら驚きますよ、僕は」
「それもそうね。」
セリカは口先だけで、そう笑った。表情が豊かになることは無く、彼女は静かに足を進める。
「……ノアはどこまで行ったの。何が目的で……?」
「彼女はルナさんを探してここまで来たそうですよ。昨日、ギルとそんな話をしているのを聞きました。彼から聞かされていませんでしたか?」
「そんなの……初めて聞いたわよ」
「そうですか。彼は何も告げなかったのですね」
「どうしてなの、ギルが私に何も教えてくれないなんて……」
「何か理由があるんじゃないですか? ノアを連れて帰ったら聞いてみたらいいと思いますよ」
そう言ってヴィンセントは、目の前から飛んできた矢に向けて撃った。撃ち放たれた銃弾と矢は相殺し、その場に落ちた。それに全く気が付かなかったセリカはビクッと肩を震わせ、反射的に壁に手を付き自分の体を支えた。
「あ、ありがとうヴィン……」
「いいえ。ボディーガードとして当然の事をしたまでです」
「……油断してたわ。ここはあいつの家、何があってもおかしくなかったわね」
そう言ってセリカは自分の拳を強く握った。そしてヴィンの顔を覗き、行くわよ……と口の動きだけで伝え、彼も笑顔で首を縦に振った。その合図と共に、セリカとヴィンセントは真っ直ぐ広い廊下を走り抜ける。それと同時に四方八方からクロスボウが舞い踊る。セリカに当たりそうになると、ヴィンセントは身を翻しその矢を自慢の銃の腕で撃ち落とす。
「……セリカお嬢様、ようこそおいでくださいました。」
「どいて! 今ミュレ姉さんと話してる暇は無いの!!」
「そんなこと言わないでください。焦らなくても、お兄様は逃げませんよ」
「…………」
突如、目の前に立ちはだかったのは紫髪を持つ女性料理人……ミュレだ。彼女は冷静に急ぐセリカを笑顔で優しく宥めている。ヴィンセントは静かに少女の前に立ち、盾となった。
「すみませんが、ミュレさん。今日はアストイル家、元当主の命日です。他人であるあなたが干渉する理由は無いと思いますが?」
「それはお互いさまでしょう……身内だけの行事にズラズラと召使がついてくる意味は無いと思いますよ。それに、私はあなたと個人的に話がしたいんです。お嬢様もお兄様と個人的にお話をしたいでしょうし」
「……まぁ、そうね。でも私はノアを探してるの、どこに行ったのか教えて。そうしたらさっさとお兄様に挨拶して帰るわ」
そうセリカが真っ直ぐとミュレの青の瞳を見つめながら言った。そんな真っ直ぐな少女の瞳を見て、レンズの向こうの大人の目は小さく笑った。そしてにっこりと微笑む……
「彼女なら、お兄様の元にいますよ。私が案内しましょう」
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