メイドの過去
4.汚れなきもの
「……結果を示す、それがあいつに勝つためにしなければならないこと。」
どうして自分はあいつに勝てないのだろう、いつもそう考えていた。結果を示さなければ、自分は永遠の二番手だ。報酬は増えないばかりだ……いつも、いつもいつもそれに悩まされていた。
「あいつよりも手柄を残すなんて常識的に考えて無理だ。だから……私はあいつを殺すと決めたのに。」
ようやく、再会出来たというのに簡単に不意打ちも受け止められてしまった。でもよく考えれば不意打ちになれているのは当たり前か……私も同じ立場だからよくわかる。
「……私たちは、常に人から殺意を向けられていると言っても過言ではないのだから。」
ぼーっと何もない夜の平野を眺めていると、どこからともなく足音が聞こえてきた。それは徐々に私に近づいてくる。
「今日も、お仕事お疲れ様です。」
その時、私の目には小柄な少女の笑顔が映っていた。
* * *
「はぁ……何か今日はいつも以上に眠い。」
「誤って包丁で手を切らないでくださいね。でも何となく今日は気だるいですね……それは僕も同じです。」
調理室ではいつも通り、執事のギルバートと料理長のヴィンセントが朝食の準備を行っていた。でもどこかメリハリがなく、気だるく重い空気が支配しており危険な雰囲気が漂う。
「おいヴィン! 鍋からお湯が噴きこぼれてるぞ!?」
「ほ、本当ですね……すぐに止めます。」
「……お前がそんなミスするなんて珍しい。やっぱこれだけ気だるいせいか?」
わかりません……そうヴィンセントは火を止めながら呟く。そしてアスパラのサラダとハッシュドポテトを順番にプレートに飾っていくが、上手く並ばないのか何回か並べ直していた。
「……お湯を入れ過ぎたせいでコーンスープの味がものすごく薄いです。作り直すので先にワッフルの乗ったこのプレートを持って行ってください。気を付けてくださいね。」
それを聞いてギルバートはワッフルとアスパラのサラダ、ハッシュドポテトの乗った朝食プレートを持って行く。いつもなら一回で三枚運ぶが、今日は安全策を取ったのか二枚だけ持って行った。
「ヴ、ヴィンさん!! ノアちゃんが……」
「ノ、ノアさんがどうしたのですか……!?」
* *
「……ノアが起きない。」
「おかしい……私の治癒がどうして効かないの」
昏睡状態のノアをリアが見つけ、部屋のベッドで寝かせてから数時間が経過していた。セリカが緑色の小さなオーブをノアの手に握らせながら看病している。
「『治癒の宝玉』の効果が出ないとなると、精神的なものが影響しているだろう。これは自身の問題だからな……」
「私が一晩ノアに付き添うわ。夕飯もここで食べる、ヴィンにこちらへ持ってくるように頼めるかしら。」
そうセリカはギルに告げる。それを聞いてギルは即座に首を横に振る。
「セリカはただでさえ宝玉を使って体力を使ってるんだ。俺が面倒を診る。」
「でも万が一侵入者が来たらどうするの。あなたは攻撃型の技を持ち合わせていないわ、それまでノアが目を覚まさなかったらギルの命も危ない。それに宝玉の力なんて小さいころから使ってるから慣れてる。」
そう言ってセリカはギルの背中を押した。わかったよ……といいギルは自分を押した手首を掴み優しく離させた。
「無理だけはするなよ、それだけは伝えておく。」
「わかってるわ。ありがとう。」
ギルは返事を聞くと、おやすみと言って部屋を出て行った。するとドアの向こうには料理長とメイド長が心配そうに立っていた。
「ギル君、ノアちゃんとセリちゃんは……」
「二人で部屋にいる。」
「さすがに二人きりというのはまずいのではないですか?」
「そんなのわかってる。だから俺は今晩ここで過ごす、二人に万が一のことがないように。」
「それなら私も残るよ。毛布とか何か必要になるかもしれないし……」
「僕も残りますよ、一晩本当に寝ないのなら多少の食べ物は必要でしょう。」
そう三人が廊下で話していると部屋の中からセリカが顔を出した。そして三人の顔を眺める。
「あなた達は寝なさい。ここまでして主人を守る必要なんて無いのよ?」
「セリカ……俺やヴィン、リアがただの主従関係だけでお前に仕えていると思ってるのか?」
「そうですよ! 私はメイドじゃなくても、セリちゃんがノアちゃんの傍にいると決めたのなら、私も協力しますから!」
「僕らはセリカちゃんに何を言われようと、自分達の意志であなたを補佐します。だから安心してノアさんの傍にいてあげてください。」
「ホント……言っても何も聞かないんだから。どうしてこんな風になっちゃったのかしら。」
……でも、ありがとう。
セリカはそう小さく微笑むと、ノアの部屋へと戻って行った。
「……いつも、私はあなた達に守られてばっかりだわ。」
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