作られる者
世界の中心にある小さな湖。そこには勇者と国王、女神に魔王、骸骨騎士とサキュバス…世界を動かす人間勢力と魔物勢力の面々が集まっていた。世界が誕生してから早数千年、役者が揃い、物語が紡がれ、歴史が深まり…世界の歯車は正常に回り続けていた。しかし、この世界にはただ一つ足りないものがあった。この物語を外の世界で幅広く広めて、この作品の認識を拡散させる語り部、作者である。この世界が十分に熟れたと判断して、宣伝者たる作者を作り出そうと、女神を筆頭に世界の有識者達が集まったのだった。円状に設置された椅子に座り、6人の創造者たちはどのような人物にするのか話し合う。
「我々の世界を外の人間達に広く知らしめる必要がありますので、使命に忠実な真面目な性格がいいでしょう。」
女神の提案に皆頷き、記録係のサキュバスが可愛い丸文字で決定事項をメモしていく。
「内面はそれでよかろうが、外見はどうする?やはり外の世界の人間の好みに合わせるべきか?」
腕を組みながら次の議題を挙げる魔王。彼の隣に座る国王は目を大きく見開いて、勢いよく立ち上がった。
「それならば、スタイル抜群の色っぺーねーちゃんにすべきじゃ!!ボンキュッボンのプリプリなのじゃ!!皆大好きじゃろ!?のう、勇者よ!」
鼻息を荒げて興奮しながら隣の勇者に同意を求めると、勇者はにっこりと国王に微笑んだ。
「僕はロリコンなので、同意しかねます。」
勇者の返答に国王は顔を真っ赤にして、鬼の形相で勇者の胸倉を掴む。
「何じゃと!?これだから青二才は!!よいか、大人のえっちで色っぺーねーちゃんの魅力は…」
「…おい。」
「了解。」
スケベ親父に呆れる魔王の仕草から命令を察した骸骨騎士は、勇者にしょうもない説教を垂れる残念な国王を彼から引き剥がし、魔王が魔法で出した鎖を使って近くの木に縛り付けた。国王はしばらく怒声を上げながら大暴れしていたが、見かねたサキュバスが魅了魔法を使うと、彼女に心を奪われたようで大人しくなった。
「では、作者は金髪美幼女ちゃんということで。」
「お前は湖の底を御所望か、勇者殿?」
「冗談ですよ、冗談。」
魔王は笑顔を見せつつも、小さく震えながら呼び出した魔剣の切っ先を勇者に向ける。勇者はそれに臆すことも悪びれる様子もなく、ケラケラ笑っていた。二人のやり取りを諌めるように女神が大きく咳払いをすると、魔王は舌打ちをして剣を収め、話し合いの続きに戻った。
「まあ、あれだな。やっぱり、話を聞いてもらうためにも、人に好感を与えるような容姿がいいかもしれんな。」
「ですね。初めて会う人間の第一印象は見た目から判断されることが多いでしょうから、聞く側が不信感を抱かない外見にするのは無難かもしれませんね。」
「はいはーい!それなら細身のアイドル系イケメン男子がいいでーす!かっこよくて可愛い男の子って、それだけで印象いいじゃないですか!イケメンなら何でも許されるってパターンが多いし、あとあと…」
指してもいないのに、一人楽しそうにペラペラと話し出すサキュバス。女神が顔を引きつらせながら魔王を見ると、魔王は額に手を置いて、骸骨騎士に親指で指示を出す。いつまでも自分の妄想を吐き出し続けるサキュバスを抱えて、国王の隣の木に鎖で縛り付けた。
「ったく、こいつら連れてきたの誰だよ…。」
「魔王様と女神です。」
「真面目に答えんでいい…。」
骸骨騎士を軽く小突き、魔王は女神、勇者との話し合いに戻った。
「さて、好感が持てる外見だが…」
「それなんですが…」
顎に手を当てながら勇者が口を開く。具体的な姿が思いつかない女神と魔王は、彼の言葉に耳を傾けた。
「容姿はテキトーでいいと思いますよ。」
「何故ですか?」
「この世界を広める方法は色々あります。大衆面前での演説によって人々に語り伝える以外にも、文章や絵で視覚的に世に出したり、音声のみで話を紡いだり…やり方によっては公に姿を晒す必要なんてないですから。」
「なるほどな、一理ある。だが、文字や絵で広めてそのうち記者会見するほどに賑わいが増せば、否が応でも人前に出ることになる。それを考えれば、容姿を整えておくに越したことない。」
「まあ、それでもいいですけど。」
その後、4人で知恵を搾り出し、この世界の作者が誕生した。作者である女性は、外の世界で小説としてこの世界の様子を世に伝え、その役目を見事に全うしたのであった。ちなみに、彼女の外見が男性とも女性とも、イケメンとも色っぽいねーちゃんとも美少女ロリとも取れるものになったのは、全て勇者と国王、サキュバスの3人が厳しい目で微調整を行い、徹底監修したからの賜物である。
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