文字こそ創造主

 「あ」は創作意欲に燃えていた。他の文字達が当の昔に忘れてしまった意欲を彼は沸々と煮え滾らせていた。毎日何千、何万もの存在を作り出すほどに、彼は何かを作り出すことに没頭していたのだ。今日もまた、脳内のイメージが固まったようで、日課であるようにあちこち回って必要な文字達を召集した。まず器・型となる素体を作り出す。「げ」「に」「ん」に手を繋がせて順番に自分の名前を叫んでもらう。すると、漠然とした人の形が彼らの前に現れた。その人型に触れながら、今度は「お」「こ」「と」が手を繋いで叫ぶと、男性の特徴を持った体の形へと姿を変えた。「い」「か」「が」「な」「み」が手を取り声を上げると長い髪の毛が生えて、「き」「く」「に」「む」「ん」が大きく名前を発すれば、筋肉質なガタイの良い肉体に変わった。そうして特徴を付加していき、最終的に長髪に強面で巨体の筋肉質な格闘家風の男が出来上がった。最後に同じ要領で性格、魂を注入すると、男は瞬きをして呼吸を始め、荒々しい雄叫びを上げて誕生を喜んだ。「あ」は男に、近くに配置しておいた球体に入るように促す。男は何の疑いもなく、その球体の中に飛び込んでいった。「あ」が球体を覗くと、その中では彼がこれまで作ってきた人間や動物、植物など、様々な生き物や物質などが一つの世界を営んでいた。

 「あ」は自分の想像した世界に満足の溜息を吐くと、再び文字たちに協力を仰ぎ、創作活動を続けた。


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