巨橋の霧

 東の都に誰よりも長けた力を持った水術師が存在した。一方、西の国には消えることのない地獄の炎を纏った火の神が暮らしていた。ある時、相反する属性を宿す二者が、大陸の中央に架かる巨大な橋で出会う。互いの本能が好敵手を認識し、体の奥底から冷湿な青と熱乾の赤を呈した無限の気迫を放つ。空は闇に支配され、雷雲を呼び、遥か眼下の海面には大渦が巻き狂った。輝く鉄槌が床板を射抜いた刹那、暖と寒の頂点は駆け出し、衝突するや否や形を失った。天は晴れ顔を取り戻し、荒れた潮は静まり返った。

 穏やかな陽の恵みを遮るように、極白の濃霧だけがいつまでもそこに留まり続けた。


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