捌くの音子
腹が減った。捌く獲物がいないか砂漠のど真ん中で探し回って早5時間。何の用意もせずに入り込んでしまった自分の浅はかさを恨みたい。砂漠に眠る地獄の涙…レアアイテムの情報をギルドで聞きつけて、誰よりも早く現地にやってきたわけだが、大慌てできたため、砂漠エリアの冒険で最低限必要な水も食糧も不十分なまま来てしまった。食糧はまだしも、猿でも水の一つや二つは用意するだろう、普通に。腹の虫が召し使いを呼ぶように飯はまだかと大声を上げる。さっきからポンポンと叩いて宥めているのだが、うちのご主人様は体操でもしているのか、大層空腹の早いことで。今はまだいいが、そのうち、今度は喉が乾いたと喉のご主人様が音を立てそうだ。見晴らしの良い砂の原を見回すが、野獣の一匹も見られない。ふと足元を見ると紫色で見るからに毒を持っていそうなサソリが「向け異界!」と無警戒にどこかを目指して歩いていた。そういえば、サソリは砂漠の貴重なタンパク源だと聞いたことがある。毒嚢を撮ってネットに上げていた奴もいたし、毒さえ取ってしまえば食えるはず。俺は探検で入手した短剣をサソリの背に突き立て、奴が動かなくなったのを確認し、たまたま持ち合わせていた火の魔術所から支給された魔術書を、砂風呂に浸かっていた魔物の白骨体に使って、火を起こした。木材のような燃えやすいものだけでなく、骨でも意思を持った石の像でも、何でも火をつけられる優れた魔術書だ。仕留めたサソリを丁寧に捌いて、食べられそうな所だけを残していく。大体サソリって尻尾から毒を出すし、下半身を食わなきゃ問題ないだろう。僅かに残った部分を短剣の先端を指して確認してから刺して、それを黒焦げになるまで、日ではさすがに無理なので火で良く焼いた。
「いただきます。」
こりこりと焦げた黒い塊を音を立てて噛み砕く。苦味の合間にエビのような独特の旨味が感じられた。決して上手いこと言えるほど美味いものでもないが、食えなくはない食材ではあるな。あっという間に咀嚼したものを飲み込んで、多少の足しになったのか、ご主人様もようやく大人しくなった。さて、ひとまず食事は取れたが、次の空腹に備えて食糧の調達が先か。あと、水源となるオアシスも早めに見つけて、起きたい時に起きられるような安心感を得ておきたい。とりあえず砂漠に生息する虫やら小動物やら、何でもいいから見つけ次第しtmt…ゑ…???
目が覚めるとそこは白い天井のある部屋だった。どうやら俺は病院に入院することになったらしい。砂漠に来ていた同じギルドの奴が、倒れている俺を偶然に見つけて運んでくれたのだ。俺が倒れた原因だが…お察しの通りあのサソリだ。奴め、全身に遅効性の毒を抱え持って、先代より指南してもらったのだろうか、ただでは死なんタイプの毒野郎だった。…毒娘ちゃんかもしれんが。
「これが弱い毒だったからよかったものの…胎内より毒を練磨して人間の体内に入った途端に、毒博士、ドクスキー氏のように死に至る致死毒を持った種類もいるのだから、無闇にそこらの生き物に手を出してはいかんよ。」
医者は呆れながら俺に注意するように念を押した。言われなくても、もうコリゴリだ。しばらく脳内法廷で欲望に忠実な自分を裁くことにするし、二度と砂漠になんて行くものか。
不意にグウウと大きな音が部屋の中に鳴り渡る。この凶暴な方向無視の咆哮は、間違いなく俺の飼い慣らしている虫だ。ある意味食あたりだったというのに、食欲に忠実な自分の胃袋に、思わず笑いが込み上げてきた。病院食、美味しいといいな。
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