誰も彼も皆が皆
とある町の噴水広場。腰を下ろして地図を眺める男。彼の前を走り去る少女。少女が通り過ぎた建物はレンガ造りの食堂。中では狼男が豪快に骨付き肉を喰らう。彼と入れ替わるようにやってきた少女。通り過ぎる彼女を眺めて、商人風の男は紅茶を啜った。食堂の隣には魔道書書店が建ち、有名作家の握手会が開かれていた。列を成す人魔物の群れは、さながら百鬼夜行である。書店を見下ろすように広がる上空の青空は、どこまでも澄んでいる。日の光を浴びながら羽衣を揺らして、天女が爽やかに曲を奏でる。町の北西にある湖畔では、美しい歌声を耳にしながら、釣り人が糸を垂らして獲物を待ち続けていた。湖畔の水底、垂らされた糸を見た水生昆虫は、魅力的な餌に目も向けず、気ままに遊泳を楽しんでいた。彼を狙う黒い魚は、獲物が刻々と近付いてくるのを息を殺して待つ。その魚を水上の木の上から、アクアリザードが舌なめずりをして狙っていた。木の幹には、ドリルキツツキの巣作りが行なわれており、騒音に顔を歪めたツリーベアーは、雄叫びを上げて彼女を威嚇した。巨獣の咆哮に驚いたランドアントは…
物語の要たる主人公が居なければ、劇的なドラマは始まることなく、世界の情景として流されてしまう。主人公が居ない、それ即ち、モブたる彼らを包括し、その生き様を映し流す世界こそ、主人公足り得るということではないだろうか。
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