7章 第6話 二学年三大美女⑤
「なんっなのあの子」
雨宮が居なくなったあと、明は怒りを抑えながら呟いた。花麦はその様子を申し訳なさそうに見ると、2人に頭を下げて謝る。
「ごめんなさい。あんなこと言う子じゃないんだけど、最近ピリピリしてることが多くなってて」
しかし、それでも明の気持ちは収まらない。
「本人がいない所でこの件を聞いたのは確かに悪かったけどさ、助けようとしたのにあれはないでしょ。しかも善人気取りって...。もう放っておこうよ」
余程その『善人気取り』という言葉が気に障ったらしい。彼女は山神にもそう呼びかけた。
山神も雨宮の対応で明が怒ってしまうのは理解できた。初対面だっただけに、正直かなり印象が悪い。
「ごめん...」
再び花麦が謝る。もちろん彼女に怒りが向いているわけではないのだが、このままだと可哀想だと思ったのか、山神は明をなだめる。
「明。気持ちは分かるけど、少し落ち着いて。それだと花麦さんに当たってるみたいだ」
花麦の表情を見て少しクールダウンしたのか、明は少し反省した様子で文句を言うのを止めた。各々何か考えているのか、3人の間に沈黙が流れる。
はじめに口を開いたのは山神だった。
「とりあえず、彼女が言ってたように花麦さんはこの件には関わらない方がいいかもしれないな。脅しで言ってたんだろうけど、本当に縁を切られたら本末転倒だ。少し俺の方で調べてみるよ」
「山神!あれだけ言われたのになんで...」
明は驚き半分、呆れ半分で声を漏らす。彼女の隣の花麦も驚きを隠せない様子でいる。
「何言われても、被害にあってるなら放って置くわけにはいかない」
すると花麦の表情が和らいだ。彼のこの言葉から、再び希望が見えたようだ。一方の明の顔は、だんだんと曇っていく。
「それに、花麦さんが声を掛けた時のあの驚き方。かなり神経質になっていると思う。怖い思いもしてきたんじゃないかな。それと...」
「もういい!」
山神の説明を遮るように、明が声を荒らげる。驚いた山神が彼女の方を見ると、ムッとした表情で睨まれる。
「関わるなって言われたんだから、関わらなきゃいいじゃん。酷いこと言われたのに、どうして助けようとするわけ」
「明。雨宮さんがああ言ってたのは...」
「知らん!勝手にすれば!」
明は聞く耳を持たない。山神に強めにそう言うと、2人を残して帰っていってしまった。
「うぅ...。ごめんね、山神君。私のせいで」
「いや、大丈夫だ。まあ、できれば最後まで聞いて欲しかったけどな」
山神は苦笑いを浮かべる。花麦は今日だけで何度目だろうか。申し訳なさそうに頭を下げた。
「けど、私のせいで2人の仲が悪くなったらどうしよう。せっかくお似合いなのに」
「それも大丈...ん?お似合い?」
花麦の言葉に、山神は耳を疑う。確かにお似合いと言った。その様子を見て、彼女は首を傾げる。
「あの。ふ、2人はお付き合いしてるんじゃないの?だから東乃さんも一緒じゃないとマズイかなって」
何かに気づいた花麦は、声を震わせながら言う。
「それで明も一緒の時に声を掛けてきたのか...」
山神は状況を理解して頭を抱えた。そもそも、なぜ明にもこのことを話したのか分からなかった。花麦がお願いしてきた内容ならば、山神だけに話せばいいからだ。むしろ、情報が出回るリスクを考えれば、多くの人に話すべきではない。
「私、彼女いる人とあんまりコソコソしない方がいいと思って...。もしかして余計なことを...?」
ストーカーの件は、本人が嫌がってる以上、なるべく関係のない人に話すべきではない。だが、それだと山神と花麦だけが隠れて何かをやっている=浮気ではないかという誤解が生じる。それならば、いっそ2人に話してしまえばいいじゃないか。きっと花麦はこのように考えたに違いない。
しかし、前提が間違っていたうえ、結果的に協力が見込めない相手にただ話したことになってしまった。
「ちょっと、余計だったかも」
さすがに山神も、このことをフォローすることができなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます