7章 第5話 二学年三大美女④

 花麦が山神たちを連れて向かったのは図書室だった。親友はどうやら委員会の仕事をしているらしい。3人の口数は少なく、図書室に近づくにつれて緊張感が高まっていた。

「そろそろ終わる時間のはずだから、もう外に出てくるかも」

 そろそろ着くというところで花麦がそう言うと、ちょうど1人の女子生徒が図書室の戸締りをしているところだった。それに気づいた彼女は手を振りながら名前を呼ぶ。

「あ、凛ちゃん!」

 凛と呼ばれた女子生徒は驚いたのか肩をビクッと震わせるが、声の主に気がつくとホッと息を吐いた。

「芽生。今日は先に帰ってって言ったのに」

 女子生徒は表情を変えずにそう言うが、花麦の後ろに付いてきていた山神たちを見つけると、険しい顔つきになる。

「...誰?」

 真っ当な反応ではあるが、山神は妙に警戒されていると感じた。それは人見知りだとか、愛想が悪いだとかではなく、自分の知らない人間は近づけたくないといった様子だ。

「山神。この子、雨宮凛さんだよ」

 一方の明は、小声でそんなことを伝えてくる。どうやら花麦の友人というのは、三大美女の1人、雨宮凛らしい。

「彼女がそうなのか」

 噂どおりきれいな黒髪で長髪、眼鏡を掛けている美少女だった。知的で物静かな印象を受けるが、不思議と目を引く魅力が感じられる。それは山神も例外ではなかった。


「あ、紹介するね。同じクラスの山神君と東乃さん」

 花麦が紹介すると、2人は初めましてと挨拶をする。雨宮も同じように挨拶するが、あまり友好的な態度にはならない。

「それで、ただ友達紹介ってわけじゃないでしょう?」

「うん。ストーカーのこと、私たちも助けるからちゃんと解決しよう。2人も協力してくれるって。山神君は魔特の養成校に選ばれてて...」

 うつむき加減で一生懸命に伝えていた花麦だったが、目線を上げて雨宮の顔を見ると、言葉が途切れてしまった。雨宮があからさまに不快そうな様子を見せたからだった。

「芽生。そのことはもういいって言ったでしょう。私1人でなんとかできる。余計なことはしないで」

「で、でも。1人でなんとかできるなら、凛ちゃんはとっくに解決出来てるはずだよ」

 花麦の言葉に、雨宮はぐっと拳を握り締め、叫ぶ直前のように息を吸う。しかし、冷静さを取り戻したのか静かに息を吐くと、また元の表情に戻って告げた。

「その件について話してくるなら、もう私と関わらないで。芽生、私は友達を失いたくない」

 さらに山神たちを見る。

「あなたたちも。善人気取りで他人の事情に首を突っ込まない方が賢明だと思います」

「な!?」

 明の反応をよそに、雨宮は花麦にまた明日と告げると足早に帰っていってしまった。



「凛ちゃん...」

 遠ざかっていく彼女の背中を見つめて、花麦は今にも倒れそうなほど落ち込んでしまっていた。

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