7章 第4話 二学年三大美女③

 花麦に連れられて、3人は校庭の隅にあるベンチへと腰掛ける。グラウンドでは運動部が懸命に練習をしており、その様子を新入生たちが眺めていた。


「改めまして花麦です。急に話しかけてごめんね」

 座って一呼吸置くと、花麦は再び自己紹介をする。先ほどは緊張していたようだったが、今はだいぶ落ち着いたようだ。

「初めて話しかけられたからびっくりしちゃったけど大丈夫だよ。それにしても、話したいことって?」

 明がそう返すと、山神も不思議そうに花麦を見た。小柄で童顔、中学生だと言われれば信じてしまいそうな見た目だが、どこか暗い雰囲気が感じ取れた。去年は違うクラスで、まだ話したことはなかったため、連れてこられた理由も心当たりがない。

「うん...。山神君って魔特の養成校に選ばれてるでしょ?魔術が得意だって聞いて」

「ああ。魔術に関することか?」

「違う、私の親友のことを助けて欲しい」

 花麦の言葉で、2人の顔に緊張が走る。彼女が落ち着いているため、緊急ではないことを山神は察したが、その表情は何かすがりつけるものを探しているようだ。

「...どういうことだ?」

 とりあえず状況を聞くために話を振ると、彼女はゆっくりと話し出す。その声は少し震えていた。

「うん...。親友が1年くらい前から男の人に付きまとわれてるんだって。本人は大丈夫だって言ってるけど、全然解決してないみたいだし、そうは思えないんだ。私にも詳しいことは話してくれなくて」

「...なるほど」

 山神は神妙な面持ちで頷く。要は花麦の親友が、ストーカー被害に遭っているということだった。明はストーカー被害のことを聞くと、不快感を露わにする。

「事情は分かった。だけど、まずは警察に相談した方がいいんじゃないか?俺は養成校に通ってるだけで、魔特ってわけじゃない」

「それは...」

 山神の返答に花麦は黙ってしまう。言い淀んでしまうのは、警察へ相談することができない理由のせいだろう。



「とりあえず話を聞いてあげたら?理由は後でもいいんじゃないかな」

 長い沈黙。その空気に耐えきれず、明がとりあえず話を進めようする。山神もしぶしぶ首を縦に振ると、花麦はホッとした様子で続けた。

「ありがとう。今日その子と一緒に帰る予定だったから、2人にも会ってもらおうと思って」

「そこで詳細な話を聞くってことか」

 彼女はまた緊張した様子で頷く。自分も詳細に聞いていなかった話を、初対面の山神たちを前にしてもらえるのか、そこを不安に感じているのだろうか。その疑問は山神にもあるものだった。


(理由は分からないが、警察に相談できないということは、自分たちで解決しようってことか。俺に頼んできたのは、何かしらの危険に対する保険か?何にせよ、話してもらえるのを祈るしかないな)


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