7章 第1話 クラス替え

 4月に入り、学生たちには少し短い春休みが終わった。2年生になった山神たちにも、環境の変化がやってくる。


「そんなぁ。円香ぁ...、絵理ぃ...!」

 昇降口の前で、明は今にも泣き出しそうな様子で2人に抱きついていた。円香と絵理は顔を見合わせて苦笑いしている。

「大丈夫だよ明。隣のクラスなんだし」

 円香が優しく言うと、絵理は少し意地悪な笑みを浮かべる。

「いや、クラス変わると意外と交流無くなるからね。明の代わりに別のいつメンが...」

「こら、絵理!」

 円香が珍しく強い口調になると、絵理はごめんごめんと言いながら微笑んだ。


 学生にとって大きなイベントでもあるクラス替え。円香と絵理は同じクラスだったが、明は1人隣のクラスになってしまっていた。2人に比べて明の交友関係が広いが、それでも仲のいい2人と離れるのは辛いものがあった。

 肩を落として新しいクラスに入った明だったが、そこでよく見知った男子生徒が挨拶をしてくる。

「お、明おはよう。お前もこの組だったんだな」

「山神!...そっか、一緒だったんだね」

 明の顔がぱっと明るくなる。円香たちと別クラスになったことで意気消沈していたが、山神と同じクラスになれたことその暗い気分も和らいでいた。

「今年も同じクラスのやつ多くなくてさ。明が同じクラスでよかった」

 安堵した様子の山神の言葉に、明は頬が少し熱くなるのを感じる。明は自らを落ち着かせるように胸を手を当てると、教室を見渡す。確かに見慣れない顔が並ぶのを見ると、不安になる気持ちもわかる。

「円香も別のクラスになっちゃったね。寂しい?」

「ん?別に小学校も中学校もずっと同じクラスだったわけじゃないからな。隣のクラスだし、会おうと思えばすぐ会えるだろ」

「そう...だよね」

 山神に想いを寄せている明にしてみれば、彼と円香が同じクラスではない方が心は穏やかだった。しかし、円香とも山神とも同じクラスになりたかった思いもあり、複雑な気持ちになるのだった。




 山神と明が話をしていると、教室がざわめく。山神が教室のドアの方を見ると、1人の女子生徒がちょうど教室へと入ってきた所だった。

「おっはよー!」

 女子生徒はドア付近のクラスメイトに明るく挨拶する。

晴野はれの 麗音れのだ...」

「俺初めて近くで見た。やっぱかわいいなぁ」

 山神の近くにいた男子生徒たちもその女子生徒、晴野の方を見て口に出していた。

 明るめの髪色に、ばっちりメイクをしており、離れていてもよく目立っている。ギャルのような雰囲気だが、モデルだと言われても信じられる容姿をしていた。

 彼女は知り合いを見つけては挨拶しながら、自分の席の方へと向かう。


「...有名人?」

 教室の空気が変わったことを不思議に思った山神が明に尋ねると、彼女は信じられないといった様子で彼を見た。

「え"、山神あの子のこと知らないの。あんた本当に男子?」

「え。いや、なんか悪いな...」

 過去にないくらい呆れた様子を見せた明に、山神は思わず謝る。彼女はもう一度晴野の方に目を向けると、説明を始めるのだった。

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