6章 第14話 バレンタイン③
「いやぁ助かりました」
「大変だったな。毎年あんなことになるのか?」
山神はさっきの光景を思い出して苦笑いする。三高でも人気のある男子の周りには女子がいたが、ここまでではなかった。
「いや、中学の頃はさすがに他校の方までは...。僕もびっくりしてしまいました」
高校生になると行動範囲が広がる影響もあるのだろうか。そういえば絵理も明も直接会う前に閃のことは知っていた。
閃の両手の紙袋には手作りと思われるものや有名なブランドのチョコレートが大量に入っていた。賞味期限は大丈夫なのだろうか。
「ところで今日は何の用事でしょうか?」
閃が当然のことを尋ねる。行き先も用件も告げずに誘っているので無理はない。というのも、明と円香に秘密にするように言われていたため、山神は閃に何も言わずに連れ出していたからだ。彼女たち曰く、サプライズは効果大らしいが、連れていく人間の都合を考えていないと山神は思った。
「えーっと、とりあえず公園に行こう。話はそこからだ」
話がそこからなのは確かだが、はっきりとしない返答に閃は怪訝な顔をしたため、山神はそれ以上は何も伝えずに待ち合わせの公園へと急いだ。
なんとか閃を公園に連れてきた山神だったが、そこに待っていたのは円香だけだった。
「...?円香、2人はどうしたんだ」
円香は申し訳なさそうに経緯を話し始める。
「ごめん。実は...」
10分前、3人は約束通り公園のベンチで待っていた。しかし、約束の時間が近づくにつれ、絵理の落ち着きが無くなっていく。
「や、やっぱり止めとこうかな。これ御堂君に渡しておいてくれない?」
今にも泣き出しそうな彼女を2人はそれぞれ励ます。
「今さら何言ってんの。大丈夫だって!」
「とりあえず少し落ち着こ。ね?」
円香が絵理の手を取って微笑むと、絵理は頷いて深呼吸をした。
「うん。...そうだ、落ち着かないと」
絵理はスマホを取り出すと、SNSを開いた。画面に映ったのは閃のファンと思われる人たちのアカウントだ。たまに閃が映った写真がアップされている。
「御堂君に慣らしておかないと...」
それらの写真を片っ端から眺めては落ち着きを取り戻しつつある絵理を見て、明は苦笑いする。
「さっきまで緊張の原因だった人の写真見て落ち着くって、どんな精神構造になってるのよ...」
「それとこれとは別...」
変わらず写真を見ていた絵理だったが、それぞれのアカウントに共通する写真に口を閉ざした。それはバレンタインに閃へと渡すチョコレートの写真。有名なブランド物や凝った手作りの物。絵理は思わず自分が作ったものと見比べると、それらのクオリティには遥かに及ばなかった。
「2人ともごめん...」
急に立ち上がった絵理に、明と円香は驚く。
「私のチョコなんて渡せない!」
絵理はそう言うと、2人が止めるまもなく公園を飛び出してしまった。
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