6章 第13話 バレンタイン②

 バレンタインデー当日の放課後、円香と明、そして絵理の3人は緊張した様子で待ち合わせ場所の公園のベンチに座っていた。

 待っている相手は山神と閃の2人。厳密に言うと山神に連れてこられるはずの閃だった。


 当日の朝、明と円香は山神にあるお願いをしていた。

「閃を公園に連れてこい?」

「そう。別に難しくないでしょ?」

 明の返しに山神は露骨に面倒な様子を見せる。

「バレンタインか。絵理なら閃の連絡先知ってるだろ。自分で連絡すればいいのに」

 しかし、これに明は呆れ顔でため息をつく。円香もそれはないという様子で首を振った。

「山神...。御堂君のことをそう簡単に呼び出せるわけないでしょ。大体チョコ渡すから来いって連絡できるわけないじゃん」

「分かってないなぁ」

 女子2人に非難され、山神もさすがにマズいと思ったのか、姿勢を正す。明がさらに続けた。

「多分だけど、御堂君は明日結構大変なことになってると思うんだよね。もし絵理が一高に行って、御堂君が反応したら大変なことになるかもしんない。連れ出すには他校の男子...あんたみたいなのが行くのがちょうどいいんだよ」

「言ってる意味がよく分からないんだが...大変そうだ」

 明のざっくりとした説明に、山神は首を傾げる。しかし、理解できないながらも何やら大変そうな雰囲気に、山神はさらに了承するのを躊躇った。

「タダでとは言わないよ。あんたにもチョコレートあげるからさ。お願い!」

「私からもお願い!」

「俺へのチョコレートは条件付きなのか...」

 チョコレートに釣られたわけではないが、本気で言っていることが分かると、山神は根負けして了承したのだった。



 放課後、山神が第一高校に着くと、校門前には女子の輪ができていた。中心に囲まれている閃は何とか抜け出そうとするが、女子生徒の圧に押されてかなり苦戦しているようだった。

(こういうことか...)

 山神は明が言っていたことを思い出す。絵理がここに踏み込めるとは思えないし、囲んでいる女子たちからは、ある種の殺気じみたものも感じられる。もし絵理、というよりも特定の他校女子の呼びかけに閃が応じれば、彼女たちの殺気がどこに向くかは明確である。

(呼ぶしかないけど怖いな...)

 山神は一瞬躊躇うが、周りの女子生徒たちに負けない大きさで閃を呼んだ。

「閃!!」

 山神の声に周りの女子生徒たちの視線が一斉に彼の方を向く。突然現れた御堂閃の友人に、一瞬静まり返った後、ざわつき始めた。

「誰だろ?」「閃!!だって!御堂様の友達かな」「三高の制服?」「...ちょっとカッコイイかも」

 山神が居心地の悪さを感じていると、閃が何とか輪の中心から脱出してきた。両手にはチョコレートが大量に入っている紙袋を持っている。

「みなさんすいません。約束があるので失礼しますね」


 えぇーっと女子生徒から声が上がるのを背に、山神と閃は逃げるようにその場を後にした。

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