6章 第12話 バレンタイン①

「どうかな...?」

 緊張した面持ちで絵理はチョコレートを2人の目の前に出す。円香が1つ手に取って口に入れると、少しの間の後に感想を述べた。

「うん...だんだんと美味しくなってきてるよ」

「ほんと!?」

 しかし、同じように味見をした明は、厳しい表情で首を横に振った。

「ダメ。ぜんっぜんダメ。そりゃ最初よりはましだし、チョコレートになってるけど、それでもまだまだだよ」

 明の発言に円香は頭を抱えた。キッチンの端を見ると、およそチョコレートとは思えない失敗作が並んでいた。全て絵理が作ったものだ。


 山神と円香が出かけ、閃と響が荊棘と交戦した翌日、予定通り3人はバレンタインのチョコレート作りをしていた。

 円香と明は順調に作り終えたのだが、絵理はそうはいかなかった。2人の指導の元、ようやく形にはなってきたが、お世辞にもいい出来とは言えない状態だった。


「そっか...」

 絵理は気落ちした様子で自分の作ったチョコレートを食べた。そして、ため息をつく。

「うん...。2人のに比べると全然だね。...ちょっと気分転換にコンビニに行ってこようかな。2人は休んでて」

 絵理は力なくそう言うと、1人で外に出ていってしまった。

 かれこれ作り始めて数時間、明も疲れた様子で椅子に腰掛けた。円香は険しい表情で明に話しかける。

「ちょっと厳しすぎるんじゃない?凄い上達してるのに」

 しかし、明は同じように首を振る。

「それは分かってるよ。でも絵理が本命渡そうとしてるのは、あの御堂君なんだよ。山神からの繋がりがあるから、絵理はその他大勢ではないかもしれないけど、それでも他の人のチョコに埋もれたら意味ないの!」

「それは...」

 円香は言葉に詰まる。確かに大量のチョコレートを貰うことが予想される閃のことだ。彼の性格上、誰から貰ったかはちゃんと把握しようとするだろうが、印象が薄いものは出てくる。


「ただいま」

 するとそこに、コンビニの袋を下げた絵理が帰ってきた。彼女は買ってきた飲み物を明たちに手渡す。

「ありがとう。大丈夫?」

 円香が心配そうに問いかけると、絵理は力強く頷いた。

「大丈夫。御堂君に渡すのは妥協したくないから...。まだ手伝ってくれる?」

 絵理の意志を確認できた明は不敵に微笑むと、胸に手を当てて答えた。

「そりゃもちろん!家庭科が4の明さまに任せなさい。でも...手加減しないからね!」

「私も自分の分は作り終わったから、最初からちゃんと手伝うね」




 そこからさらに数時間、ようやくは完成した。

 しかし...

「なんで上手くまとまらないの〜」

「まさか絵理がここまで不器用だとは...」

 くしゃくしゃになってしまったラッピング。

 3人の戦いはまだ続くのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る