6章 第11話 看破②

 荊棘の迫力に、閃は後退りしながら距離を取る。今までは本気ではなかったのか、先ほどの響への攻撃は、明らかにスピードが上がっていた。

(口調は穏やかですが、この圧力...。とはいえ、響さんが魔法陣を消してくれたおかげで動きやすくなりました)

 閃は撹乱するように魔法陣から火の鳥を飛ばすと、それに紛れるように移動する。隙を狙いながら素早く動く閃に、荊棘は狙いを定めかねている。

 荊棘の蔓が少し反応した瞬間、火の鳥が彼へと向かう。蔓が火の鳥を防ごうと動くと同時に、閃はその反対側へと回り込む。その動きを読んでいた荊棘の蔓は、鞭のように閃の身体を...叩かなかった。蔓が叩いたのは、人型の炎。本物の閃は、さらに1歩踏み込んだ場所まで移動していた。閃は荊棘の背後に思い切り蹴りを入れた。これは直撃し、荊棘は顔を歪めてバランスを崩す。

 畳み掛けるように火の鳥が次々と荊棘を襲う。彼は体勢を建て直す暇もなく、薔薇の花びらを盾のようにして防ぐ。しかし、また側面に回り込んでいた閃は、さらに蹴りを放った。一方の荊棘、蔓を閃へと伸ばす。


 荊棘は閃の蹴りを腕で受け止めるが、勢いを防ぎきれずに後ろによろめく。閃は顔へと伸びた蔓を上手くかわしたため、頬に蔓の棘が掠っただけだった。閃は次の攻撃に備えて再び距離を取ったが、急に足の力を失い、膝を着いた。

「な...どうして」

 閃は落ちそうになる意識を保つため、手で頭を抑える。しかし、抗いようがない眠気が彼を襲っていた。

(あの煙は吸っていないはずなのに)


「これが私の本来の力です。魔術ではないと言っておきましょう。どうせ忘れてしまいますしね」

 先ほどのように胸ポケットのペンに手を伸ばそうとして、閃はその場に倒れ込んだ。

 荊棘は息を吐くと、倒れ込んだ閃と響を見る。

(距離を取れば私が有利だと分かれば、体術メインに切り替えてきましたか。この2人なかなかでしたね。では、さっさと月見円香の情報を抜き取って...)

 しかし、閃の頭に手を伸ばしたところで、荊棘は周りが騒がしいことに気づく。外部を遮断していた魔法陣を響が破壊したことで、不審に思った通行人が通報でもしたのだろう。

(重ね重ねやられましたね。情報を抜き取る時間はないか...。せめて、今日のことは忘れてもらいましょう)





「御堂!」

 響の呼び掛けに、閃は目を覚ました。気がつけば、響と2人でベンチに座っている。

「あれ、僕は何を...。確か剣次さんたちの様子を...」

「そうそう。あまりに退屈なんで寝ちまったのかなぁ」

「暖かいとはいえ2月ですよ?そんなこと...って、2人居なくなってるじゃないですか!」

 閃は山神と円香が座っていたベンチを指さして叫ぶ。その後、響にまくし立てるように何かを言うと、山神たちの後を追って公園を飛び出していった。

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