6章 第9話 昏睡事件と影③

「一応その辺は抜かりなく。魔特を呼ばれるのは少し厄介ですから」

 響が足元を触って確認すると、かすかに魔力を感じた。次に公園の端に目を移す。

「御堂、通信妨害の魔法陣だ。この公園丸々囲ってる。外からも中の様子が分かりにくいはずだ」

 響が閃に小声で伝えると、閃も頷いて同様に足元を確認する。男性は2人を見て笑みを浮かべる。

「気づいたところで出ることはできません」

 男性が指を鳴らすと、地面の魔法陣から煙が発生する。すると、公園の中にいた人たちが次々とその場に倒れ込み始めた。響はいち早く気づいてハンカチで口元を抑える。

 しかし、同様に口元を抑えるのが少し遅れた閃は、その場で膝をついた。

「耐えきれる眠気ではないでしょう。女性ならば数日眠ってしまいます。男性は数時間程度ですが、敵前での居眠りの危険性は分かるでしょう」

「く...」

 閃は必死に目を開いていようと抗うが、今にも眠りに落ちそうな様子だ。響は思考を巡らせるが、この状況を打開する作戦は浮かばない。

(やべぇ。俺1人じゃ倒すのは無理だし、かと言ってコイツ置いて逃げるわけにも)

「彼が眠ったら、君をどうにかしましょうか。眠った人を尋問できる術はありましたかねぇ」

 少しずつ距離を詰める男性と後退りする響。響は周りを見渡すが、使えそうなものはない。しかし、彼には閃が胸ポケットに入っていたボールペンを取り出す姿が見えていた。


(何するつもりだ?)

 響がその疑問を持ったのもつかの間、閃はボールペンの芯を出すと、それを思い切り自分の太腿へと突き刺す。

「ぐっ...!」

 閃は痛みに顔を歪めるが、歯を食いしばって立ち上がった。これには余裕だった男性も動揺して2人から距離を取る。

「これで...目は覚めました。もうこの煙は吸いませんよ」

 閃が男性を睨むと、男性は先ほどとは違った雰囲気ながらも満足そうな顔をした。

「優男かと思いましたが...。その心意気、賞賛に値しますね。名乗らないのは失礼でしょう。私は荊棘、最後まで覚えていることができますか?」


 荊棘がもう一度指を鳴らすと、今度は地面に大きな薔薇のような花が現れる。さらに、そこから棘のある蔓が閃と響へと伸びた。閃は火の魔術を鳥のようにして飛ばすと、数羽で蔓を弾き、残りの数羽で荊棘へと攻撃を試みた。しかし、これは難なくかわされる。

 一方の響は、電気の球を荊棘へと放つが、これは蔓に簡単に防がれてしまう。自分へと伸びる蔓も、辛うじてかわしている状態だ。

 荊棘と閃、響の攻防は続く。しかし、少なからず煙を吸ってしまっている2人の動きは、段々と鈍くなっていた。


(ああ...。御堂は何とか戦えてるけど、足を怪我してるし長くは持たないよなぁ。ってことは俺がどうにか...。できんのかなぁ)

 閃と荊棘を交互に見て、響はそんな情けないことを考えていた。

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