6章 第8話 昏睡事件と影②
「まさかこんなに早く見かけることになるとは...。これは見届けないわけにはいきません」
「あれで付き合ってないってマジかよ」
同日、映画を見に出掛けていた閃と響は、偶然円香たちが映画館を訪れたのを見掛けていた。『付かず離れずの2人、この機会に急接近』作戦を考えていた閃は、当然2人の様子が気になって後をつけ、それに響が乗っかっていた。彼らは円香たちから隠れつつ、2人の様子を伺っていた。
「映画館では何やら上手くいっていなかったようですが、今の雰囲気はとてもいい感じです。ふふふ、剣次さんも意外とやりますね」
閃は満足そうに含み笑いをすると、響が呆れたような目で彼を見た。
「最近お前のキャラが分かんなくなってきたなぁ。人のデート盗み見なんて趣味悪いっつーの」
「響さんもノリノリだったクセに...」
閃が反論すると、響は開き直った態度で答える。
「俺はこういうの大好きなんだよ。火野ってば変なとこ真面目だから、こういうのは御堂と一緒にやることにするかなぁ」
「いや、僕は別に誰にでもやるわけではないですけど」
2人が生産性のないやりとりをしていると、ベンチに座っていた円香が立ち上がった。続いて山神が立ち上がり、2人は歩き出す。これから本屋へと向かうところだった。
「おっと動いたか、次はどこに行くつもりなんだか」
「追いかけますか」
当然のように後をつけるつもりの2人だったが、移動しようとしたその時、誰かに呼び止められた。
「すいません、そこの御二方。少しお尋ねしたいことがあるのですが」
2人が呼び止めた人物の方を振り向く。モデルのような高身長に、威圧感のある男性だった。手には1枚の写真を持っているようだ。
「なんでしょうか?」
閃は店か何かを探しているのだろうと男性の方を向くが、その写真に写っている少女に気づいて一瞬顔を強ばらせた。
(円香さん!?)
ここ最近の昏睡事件を起こしていた犯人だ。
閃が男性の顔を見ると、彼は優しそうに微笑んだ。しかし、その目からは冷たさを感じる。
「この写真の女の子を探しています。遠い親戚なのですが、最近連絡がつかなくなってしまって。親は亡くなっていますから」
先ほどまでヘラヘラしていた響も、異変に気づいて男性を警戒していた。
「いえ、分かりません。僕たちとは違う高校のようですから」
すると男性は写真をじっと見て頭を抱えた。
「ん〜、なるほど。同じ女性だと間違ってしまうので、男性に尋ねるのはグッドアイデアだと思ったのですが。おっと、ありがとうございました」
独り言を喋ると、男性はお礼を言って歩いていってしまった。男性が離れたところで、響が閃に話しかける。
「あいつ、昏睡事件のだよな。まさか追いかけるなんて...」
「いや、止めておきましょう。円香が狙われているのが分かった以上、すぐに魔特に連絡するべきです。剣次さんたちもまだ近くにいるはずですから」
閃は携帯を取り出して、魔特へと通報しようとする。しかし、なぜか電話が繋がらない。
「け、圏外?そんな馬鹿な」
「こんな時に故障かよ!俺が掛けるぞ」
電話が繋がらない閃に対し、痺れを切らした響が同じように電話しようとするが、こちらも同様に繋がらなかった。
「おや、どこかに急ぎの連絡でも?」
魔特への連絡に夢中になり、不意に話しかけられた2人が驚いて振り返ると、そこには昏睡事件の犯人が立っていた。
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