6章 第4話 昏睡事件と影

「こ、こないで...」

「逃げないでください。ん〜、似ている気がしますね?」

 制服姿の少女は恐怖で顔を凍りつかせ、後ずさりしている。少女の目線の先には、1枚の写真と少女を交互に見ながら距離を詰めてくる若い男性がいた。モデルのようにスラリと高身長で、向かってくる姿からは威圧感が感じられる。

「私何もしてない。なんで...」

 少女は必死に首を振りながら訴えかけるが、男性は聞いていない様子でため息をついた。

「はあ...。ボスも人が悪いですね。私では目標ターゲットとそうでない者の区別がつけられません。制服を着ているとみんな同じ顔に見えますね」

 頭を抱えながらも少女に迫る男性。女子高生と思われる少女は、躓いて尻もちをついてしまう。

「...試してみれば分かりますがね」

 男性が指を鳴らすと、少女の足元に魔法陣が浮かび上がる。魔法陣からは白い煙が発生し、それを吸い込んだ少女はそのままその場に倒れ込んでしまった。流れる沈黙に、男性は気まずそうに写真を見た。


「あっ...。間違ってしまいました。残念ながら起こすことはできないのです。数日すれば自然に目覚めるので、どうかお許しください」

 男性は眠ってしまった少女の姿勢を直すと、申し訳なさそうに頭を下げてから歩き出す。

「...そういえば目標の名前も忘れてしまいました。一度戻った方がいいですかね」

 男性は再びため息をつく。少し面倒そうな表情になるが、足取りは軽い。


「7年前は魔特に邪魔されましたからね。名前は...カワカミ。いや、ノガミでしたっけ?興味がないので忘れてしまいました。まあ、今回成功させればいいのです。この世界に必要な事なのですから」

 男性は1人呟くと、微笑んでその場を去っていった。



 少女が被害に遭ったこの日、最初に昏睡状態にされた少女が目を覚ました。被害に遭った時の状況ははっきりと覚えていないが、男性が探していた少女の名前はぼんやりと覚えていた。


「第三高校の制服でした。名前は、月見...さん?」

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