6章 第2話 2月のイベント②

 その日の養成校が終わると、閃は山神を手招きし、人が少ない方へと呼ぶ。周りを確認すると、カバンから何か印刷された紙を取り出した。ネットの記事のようだ。

「これは...。連続昏睡事件?」

「えぇ。と言っても、全部隣町の事件なんですが...。被害者を見てください」

 山神が記事を読み進めると、被害者は2人でどちらも女子高生だ。被害に遭う前日、女子高生を探している不審者が居たという目撃情報があったようだ。

「...剣次さんに聞いた光来さんの言葉。考えすぎかもしれませんが、もしを狙ったとすれば」

「...たまたま似ていた子たちが被害に遭ったってことか」

 山神の顔が曇る。正直この手の事件が珍しいわけではないが、クリスマス前の件でどうしても神経質になってしまう。それは閃も理解しているようだが、伝えずにはいられなかった様子だ。

「すいません。僕たちでどうかするという話ではないですが、十分気をつけてください。なるべく円香さんを1人にしないように」

「分かった。何が狙いなのか、どんな手段で来るか分からないからな。普段よりも警戒するようにしておくよ」

 閃の目を見て頷いた後、山神は何かを思い出した様子で口を開いた。

「おっと、今日は早く帰らないとなんだった。じゃあまたな、閃」

 

 山神は手を挙げて挨拶すると、そのまま走って帰って行った。閃は山神の姿が見えなくなるまで見送ると、優しい表情から一変し、真顔へと戻る。軽く息を吐いて帰ろうとすると、彼を呼び止める声があった。

「待て御堂」

 閃が振り返ると、火野と響がこちらへと歩いて来た。響は少し警戒した様子を見せる。

「なんか2人でコソコソと。怪しいと思って聞いてたけどなぁ、お前なんのつもりだ?」

 響の言葉に、閃の表情が少し固くなる。

「月見円香ちゃんの時間からまだ1ヶ月も経ってない。魔特の隊長が関わった事件、その後の警戒状態で彼女に手出しなんてなかなかできないでしょ。あえて山神を一緒にしておく程のことじゃない。お前?」



 閃は今までに見たことのない意地の悪い笑みを浮かべると、火野と響の顔を交互に見る。

「なるほど、剣次さんはあっさり信じ込みましたが、まさかあなたにバレるとは。さすが探知部門を目指すだけのことはある」

 響は引き続き警戒した様子で閃の動きを観察する。一方の火野はあまり状況を理解していない様子で、2人をただ見ているだけだった。

「バレたからにはお話しましょう。しかし、剣次さんに知られるわけにはいきません」

 閃がグッと力を入れると、響は身構える。しかし、閃の口から出たのは予想していない言葉だった。





「その名も、『付かず離れずの2人、この機会に急接近』大作戦!」

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