6章 第1話 2月のイベント

 年が明けて早1ヶ月、高校生ならば2月になってのあのイベントで盛り上がる。

「なあ山神、月見さんって誰かにチョコレートあげる予定あるかな?俺にもチャンスあるかな!?」

「義理...いやワンチャン本命とかさあ!?」

「...なんで俺に聞くんだよ。知るわけないだろ」

 クラスメイトの男子に絡まれ、山神は顔をしかめた。というのも、この質問をされたのがもう何度目かも分からないからだった。

 世の中はもうすぐバレンタインデー、男子生徒はクラスの女子生徒の動向が気になって仕方なかった。特に人気のある円香は尚更だ。

「そんなに気になるなら本人に聞けよ」

「バッカお前、そんなの恋する乙女に聞けるわけないだろ!」

 あまりの必死な勢いに、山神は押される。どう受け流すか図りかねていると、誰かが丸めた教科書でクラスメイト2人の頭を軽く叩いた。

「あんた達が円香に貰えるわけないでしょ」

 3人が声の方を振り向くと、そこには呆れ顔の明が立っていた。クラスメイトには哀れみの目さえ向けている。

「なんだ明かよ...。お前には期待してないよ」

「今は月見さんの話をしているんだ!」

「だから円香の話してるんでしょ!」

 言い合いになる3人に巻き込まれないようにと、山神は荷物を持って静かにフェードアウトする。気付かれないように教室の外に出ると、絵理と円香がちょうど戻って来たところだった。円香は教室が騒がしいことに気づくと、首を傾げて山神へと尋ねる。

「騒がしいけど、どうかしたの?」

 すると、何となく察しがついた様子の絵理が苦笑いした。

「あはは...災難だったね山神。円香、明を連れて帰ろう。多分円香が行けば静かになるから」

「どういうこと?」

 状況を理解していない円香が教室に入ると、絵理の言ったとおりに静かになる。クラスメイト達は、円香本人を前にさっきの話をするほどの度胸はないようだった。



「それは災難でしたね。確かに、円香さんの言動には敏感になりそうです」

 放課後に魔特養成校で閃に話すと、彼は笑いながら答えた。

「閃は相当貰えるんじゃないのか?それこそみんなに羨ましがられそうだ」

 しかし閃は少し困ったように頭を搔く。

「うーん...。ありがたいことに沢山いただけるんですが、僕はそんなに甘い物を食べるわけではないので、少し困ってしまいますね。手作りのものとかは他の方にあげるわけにもいきませんし...」

「な、なるほど」

 山神のクラスメイトが聞いたら、思わず拳を固めそうな贅沢な悩みだ。しかし、確かに手作りのものを何十個と貰った日には、処理に困りそうな気持ちも分かる。


「そういえば話は変わりますが、剣次さんに話そうと思っていたことが...」

 閃が何かを言いかけた時、養成校の講師である入江がちょうどやってきた。

「おっと時間だな。悪い閃、後で聞くよ」

 山神は少し気になりながらもそう言うと、閃は軽く頷いた。

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