5章 第25話 狙うものと狙われるもの

 都内で最大の歓楽街。賑やかな場所から外れ、どことなく近寄りがたい雰囲気がするビルの間を、御堂彩は1人歩いていた。複雑に入り組んだ道を奥へと入っていくと、看板が出ていない階段を降りていく。地下まで降りると、その先の扉を数回ノックしてから入る。


 元々は居酒屋だったのだろう。テーブルと席が並ぶ店内の奥の方に、何人かの影が見えた。彩がそちらに近づくと、立っていた1番ガタイのいい男性が彼に気づく。


「てめぇ御堂彩!どの面下げて来やがった」

 今にも掴みかかりそうになるガタイのいい男性を、スーツに眼鏡のサラリーマン風の男性が止めた。

「落ち着きなさい。ボスの前ですよ。...それにしても、君に任せた計画は失敗したようですが?彼が怒る理由は僕には分かります。なぜ僕が見つけ出した占い師を妨害したのか...」

 眼鏡の奥の眼が鋭く光る。彩は肩をすくめて答えた。

「月見円香にあの占い師の幻術は効いていなかった。さすがに不審に思われて、山神や閃に相談されれば、捕まるのは時間の問題。この組織の存在もバレかねない。記憶を消して捕まえさせた方がいいと思ったまでだ」

「なるほど...しかし、勝手に行動されるのは困ります。あなたの存在は、組織の秩序を乱しかねません。残念ですが...」


 しかし、そこで何かを感じたのか眼鏡の男性は肩をピクっと動かすと、口を閉じて後ろへと下がった。すると、どこからか店内に低い声が響く。

「彩、独断での行動は許可していない。組織を守るためとの言葉、偽りはないな?」

 姿が見えないが、その声に場の空気が一瞬で重たくなる。

「...はい」

 彩は表情を変えずに答えるが、先ほどよりも少し余裕がないようにも見えた。少しの沈黙の後、また低い声が響く。

「優秀なお前を失うのは惜しい。今回だけは許そう。しかし、次はない」

 声が消えると、店内は元の空気に戻る。周りにいた数人も、水中から顔を出したかのように息を吐いた。今度は先ほどの2人とは違う、リーダー風の男性が彩に声をかけた。

「御堂、ボスが許した以上、我々から今回のことを言うつもりはない。ただ、勝手な行動は慎め」

 分かったよとばかりに睨みつける彼に軽く手を振ると、彩はその場を後にした。



 歓楽街から離れ、1人歩いて帰る彩は、心の中で舌打ちをした。

(ちっ、今回のことでさすがに怪しまれたか。許されたのは寛容ってよりかは、泳がされてる感じだな。...まぁ、まだ情報が足りない以上、少し距離を取りながら利用し合うしかないか)

 彩がスマホを取り出してネットを開くと、捕まっていたあの占い師が、自殺未遂をしたとの記事が目に入る。周りに魔特や警察が居たため、何とか止められたとのことだった。彩は今度は周りにも聞こえる舌打ちをする。

(やっぱり上手くいかなかったら証拠隠滅、自殺するように仕込まれてたんだな。...まぁ、おかげで月見円香に死霊魔術を定着させることができた。とりあえずは様子見か...。あとは、あいつらがどう出るかだな)

 彩は不機嫌そうにスマホを弄ると、足早にどこかへと向かっていった。

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