5章 第24話 普通の女子高生

「...何言ってんだ、あんた。円香は普通の女子高生だ」

 山神は海安を睨みつける。普段出さないような低い声色だった。海安は気にしていない様子で山神に目を向ける。今にも掴みかかりそうな雰囲気に、光来が慌ててフォローを入れた。

「山神、気持ちは分かるが一旦最後まで聞いてほしい。海安も、無駄に煽るような言い方をしないでくれ」

 山神は光来の言葉に、軽く息を吐いて自らを落ち着かせる。光来はホッとした様子で続けた。

「海安の言った通り、死霊魔術の使用はかなり精神的に負荷がかかる。それこそ、それで廃人になる人もいるくらいだ。しかし、彼女には一切異常は見られない。彼女が人並み外れたメンタルを持っているなら別だが...」

「亡くなった両親を求めて死霊魔術を使った円香では考えにくいってことですか」

 山神の推測に光来は大きく頷く。次に、海安は懐から本を取り出して2人に見せる。

「これは月見円香が使用した死霊魔術の魔導書だ。短縮魔法陣、いわゆるショートカットを定着させるもの。これにより死霊魔術が使用可能になったと思われる」



 魔導書には2つの種類がある。1つは単純に魔術の使用方法が記してあるもの。魔術の教科書のようなものだ。

 そしてもう1つが短縮魔法陣というものを、術者の身体に定着させるもの。普通であれば魔法陣を描いて発動させる魔術を、その過程をして発動可能にするものだ。ショートカットとも言われ、魔特のように魔術を生業とする人々なら定着させていることは珍しくない。

 しかし、魔術を待機状態にしているため、常に魔力を消費してしまうことや自分の身体に馴染まない魔法陣はそもそも定着できないなど、使用にはそれなりのハードルがある。


「光来やお前が嘘を言っていないのであれば、月見円香が死霊魔術を使ったのは確実だ。しかし、彼女の身体を調べた結果、定着魔法陣の痕跡は見られなかった。魔導書を使用したにも関わらずだ」

 山神は怪訝な顔をする。短縮魔法陣の定着を解除するには、もう一度同じ魔導書を使用しなければならないからだ。円香にはそのタイミングはなかった。

「色々と検査したんだが、理由は不明。彼女が死霊魔術をまた発動させる可能性も極めて低いという判断で、とりあえず様子見ということになった。少し警戒はさせてもらうけどね」

 光来は複雑な表情で軽くため息をつく。一方の山神は、円香が拘束される結果にならずに内心ホッとしていた。とはいえ、死霊魔術の短縮魔法陣がどうなってしまったのかという謎は残る。


 ひと呼吸置き、光来は改めて山神の方に向き直すと、真剣な表情で話し出した。

「山神、死霊魔術の魔導書は厳しい規制で一般的に出回ることはまず無い。魔力増強の薬物のように、闇サイトで買えるようなこともない。誰かが目的を持って彼女に近づいた可能性は大いにあると考えられる。...十分に気をつけてくれ」

「...分かりました」

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