5章 第21話 第7番隊隊長②

 光来は口早に説明を始めた。山神と火野を順番に見ると、それぞれに指示を出す。

「私が前に出て戦う。君たちには援護をお願いしたい。火野君は彼女を、山神君は周りの人影と触手を狙うんだ。私はかなりスピードを上げて動くが、君たちが狙いを変えなければ全てかわす」

 2人はイメージを掴めない様子ながらも頷く。光来も同じように頷くと、掛け声とともに駆け出した。

「行くぞ!」


 2人が構えると、既に光来は円香の目の前に移動していた。

(速い!?瞬間移動か?)

 山神が驚く暇もなく、今度は円香の右側へと回り込む。周りの人影を光の槍で貫くと、円香にも同じように光の槍を伸ばす。しかし、光の槍は影の触手に防がれる。触手はそのまま光来を狙って伸びるが、光来は光の壁でこれをいなした。


 一方、2人は光来の指示通り行動を起こした。火野は炎の球で円香を狙う。歯を食いしばりながら複数の炎の球を連続で放つと、影の触手は形を変えて壁を作って円香を守った。

 同時に山神は影の触手を狙い風のクナイを投げる。しかし、ぶつかっても多少ふらつく程度で効果があるとは思えなかった。

(これじゃダメだ。陽動にもなってないぞ。陸園さんの意図は...)

 考えながらも、今度は人影を風の刃で切り裂いた。

(もっと威力を上げるか、魔法陣を使うか?魔力消費を上げて攻撃を続けても大丈夫なのか?いや...落ち着け)

 山神は軽く息を吐いて戦況を伺う。火野の魔術を防いでいるのは影の壁で、影の触手は3本分。火野はだいぶ息が上がっていて、同じ魔術を長く続けられそうにはない。更に光来を追いかけているのは、残り3本の影の触手だ。しかし、1本は比較的自由に動いているため、山神が円香を狙っても阻まれる可能性は高い。

 すると、山神は光来の動きに違和感を感じた。円香の側面や後方を高速で移動している光来は、時々スピードを落としてバックステップをしていた。触手は光来に向かって伸びるが、円香から離れそうになると戻っていく。深追いはせずに、あくまで円香を守るために動いているようだ。

(リズムが一定だ。攻撃のタイミングを図ってるのか?だとすると次は...)


「ここだ!」

 山神が地面に手をつけると、光来を追って伸びる触手の根元にも魔法陣が浮かび上がった。触手が最大まで伸びたところで魔術が発動し、風が巻き起こる。2本の触手は風にあおられてお互いに絡みついた。すぐに戻ろうとするが、その一瞬を光来は逃さない。

 光来は右手に大きな光の刀のようなものを纏うと、それで2本の触手の根元を真っ二つに切断した。斬られた触手は霧のように消える。

 次に光来は円香の正面、火野の魔術を防いでいる影の壁の前に移動する。火野の魔術が当たらない場所に上手くポジショニングすると、今度は光の槌で影の壁を思い切り叩いた。耐え切れず影の壁は粉々に砕ける。

 火野の魔術や光来に対応するため、円香の周りの残った触手や人影は前方へと移動するが、既に光来の姿はそこには無い。一瞬で防御が薄くなった円香の背後に回り込むと、円香の背中に手をかざした。


「2人ともよくやった」

 バチンと何かが弾けるような音がすると、円香の周りの影は消え始め、彼女は力なくその場に倒れ込んだ。

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