5章 第20話 第7番隊隊長
火野の胸元へと真っ直ぐ飛んでいく影の氷柱。火野はなんとか左半身を引いてかわすが、避けきれずに魔術が左腕に突き刺さる。
「うぐっ」
火野は痛みに顔を歪めるが、すぐに左腕に炎を纏うと、影の氷柱を砕け飛ばした。しかし、右手で抑えた隙間からは血が滴り落ちる。
「火野、大丈夫か!?」
円香の後ろへと回り込んでいた山神が火野の元へと戻る。山神の問いに火野は黙って頷くが、その左手は小さく震えていた。ただその顔は、変わらずに円香の方を睨みつけている。
「また来るぞ!」
火野の叫び声に山神が円香へと視線を移すと、同じように影の氷柱を何本も作り出して、2人に狙いをつけていた。大きさは小さいが数が多いため、魔術を使わずにかわしきることは難しい。
山神は風のクナイで何本かを相殺するが、それでも十分な量の氷柱が2人を襲う。火野は歯を食いしばって炎の壁を作ろうとするが、腕の痛みで大きさも早さも普段には及ばない。
(間に合わない...!)
しかし、2人の目の前まで迫った影の氷柱は、同じように背後から飛んできた閃光が全て撃ち落とした。
「大丈夫か君たち!」
更にものすごいスピードで、2人の元にある人物が駆けつける。明が助けを求めた男性、魔特第7番隊隊長で山神を養成校に推薦した人物でもある陸園光来だ。
「...!君たちだったのか」
「陸園さん!?どうしてここに?」
「君たちの友達が教えてくれた。第三高校の女子生徒だったな」
光来の言葉に山神が周りを見渡すと、明の姿がなかった。火野も同じように気づいていなかったようだ。
「...とりあえず状況を教えてほしい。助けにきた子の様子も普通ではなかった」
光来の問いに火野はぶっきらぼうに答えた。
「攻撃が効かねぇ。ぜんぶあの影の触手みたいなもんに防がれる」
しかし光来は円香を一瞥すると、厳しい口調で返す。
「それじゃ分からない」
ひと呼吸おいて今度は山神が答えた。
「円香...彼女が使ってるのは自在に形を変えられる影のような魔術です。今は氷柱状にして飛ばしてましたが、さっきまでは触手のような形でした。火野の魔術は大体3本、俺のは1本で防がれます」
すると光来は納得したように頷き、火野の左腕に手をかざした。青白い光が腕を包むと、火野の出血が少しずつ治まる。
「すまない。
青白い光が消えると、出血が止まった。火野は左腕を動かすが、曲げようとしたところで顔をしかめた。まだ痛み自体はあるようだ。
「まだ痛むだろうが我慢してくれ。そろそろ彼女がまた攻撃を仕掛けてくる」
3人が円香を見ると、足元に広がっていた影がまた触手へと形を変えていた。同様に人影もまた現れる。
光来はまた円香の様子をじっと観察すると、山神と火野に語りかける。
「私が来たからには安心だ。
......と言いたいところだが、そうもいかないな。私が1人で止めることは可能だが、全力を出せば彼女に大怪我を負わせかねない。かと言って加減して無力化できる状況でも無さそうだ」
「つまり...君たちの力が必要になる」
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