5章 第19話 自分にできること

 高校入学初日、緊張しながら初めて話した同級生は、すぐに親友になった。数学がすごく苦手で、運動神経があまり良くなく、少し抜けてる部分がむしろクラスの男子に受ける普通の女子高生。

 そんな彼女から、突き刺さるように冷たい印象を受けるのは初めてだった。


「円香...」

 明は見たこともない魔術を使う円香を見て呟く。山神たちが魔術で対抗し始めた以上、自分にできることはない。助けを呼ぶためにスマホで連絡を取ろうとしたが、故障したのか何処にも繋がらなかった。

(こんな時に...。なんで!)

 明はスマホを地面に叩きつけようとして思いとどまる。そんなことしても何にもならない。



(なら...走ってでも誰かを探すしかない。ここにいて巻き込まれたら、山神たちに迷惑にかるかもしれないし)

 明は火野が魔術で破った扉から外へと飛び出した。2人に伝える余裕はない。それだけに、2人に逃げたと思われる怖さが明にはあった。親友を助けるためには、魔術の得意不得意関係なく自分も突っ込むべきではなかったのか。


(...それは絶対無理。玉砕なんてキャラじゃない。私にできることをやんないと)

 明は迷いを振り払うようにとにかく走る。しかし、廃工場の周りはとにかく人通りも少なく、誰も見つけることができない。

 なんとか人が居そうな場所へ行こうと、曲がり角を曲がろうとした時、明は角から出てきた人とぶつかってしまった。よろめいて倒れそうになる彼女を、ぶつかった相手はとっさに支える。

「すいません。大丈夫ですか?」

 明が顔を上げると、目の前にいたのは長身で端正な顔立ちの男性だった。近くで見ると威圧感があるが、表情は優しい。

 明は人と会えた安堵から溢れそうになる涙を堪えながら、声を絞り出した。

「あのっ!と、友達が大変で。私、魔特に何度も、電話を掛けたけど繋がらなくて...」

 明の様子に男性の顔つきが変わった。落ち着いて、と声を掛けると、明にいくつかの質問をする。

「その場所と状況を教えて」

「場所は、向こうの廃工場で...。友達の魔術が...まだ2人取り残されてて」

 男性はスマホで地図を確認すると、明の目を見て微笑んだ。

「大丈夫。私に任せて。電話が繋がらなかったのは魔術の影響だから」

 今度は明がスマホを見ると、確かに問題なく動いているようだった。数分前に届いたメッセージの通知が何件も出ている。

「少し落ち着いたらまた魔特に連絡して、場所と状況を伝えて。それと覚えていたら...」




「7番隊の陸園光来が現場に向かっていると」

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