5章 第18話 影の魔術

「来るぞ!」

 火野が叫ぶと同時に、人型の影が3人の方へと歩き出した。動きは早くないが、確実に距離を縮めてくる。それと同時に先ほど壁になった柱状の影が、触手のようにくねりだした。その1本が山神の元へと伸びる。

「なんだ!?」

 山神がとっさに盾魔術シールドで防ぐと、弾き返した触手は円香の周りへと戻った。山神は風のクナイを人型の影に投げ、上手く命中させるが、吹っ飛ばした影は消えることなく立ち上がり、再び歩き出す。

 一方の火野は、炎の柱を伸ばすようにして攻撃を試みるが、今度は影の触手に防がれてしまった。更に力を込めて威力を高めるが、向こうも触手を複数本重ねて押し返す。

「火野、無理するな。魔力切れを起こすぞ」

 山神の言葉に火野は舌打ちをする。

「こんなんじゃ起こさねぇよ。それよりも影なのかなんなのか知らねぇが、あれを突破できなきゃ攻撃は届かねぇし、気絶もさせらんねぇ」

「そうだな...」

 山神は円香の周りを確認する。地面から出ている影の触手は6本。間隔はまばらだが、丁度前方180度の範囲から全て出ている。先程の様子から形は自由に変化できるようで、伸ばせば山神たちの方にも届くようだった。

「...火野の魔術が届かないんじゃ、俺の魔術は簡単に防がれる。周りの人影も放っておけないし、円香はお前に任せる。隙ができたら俺も攻撃する」

「あぁ」

 火野が頷くとまず山神が動いた。風のクナイで人型の影をふっ飛ばすと、円香の右側面に回り込む。山神が円香に風のクナイを投げるのと同時に、火野は炎の波を作り出した。二方向から円香への攻撃を試みる。しかし、影の触手は風のクナイ簡単に防ぐと、火野の炎を防ぐように壁になった。残り2本の触手は、火野と山神へと伸びる。

「チッ」

「くっ...」

 火野は炎の盾、山神は風を利用して素早く移動することで回避した。そのまま後ろに回り込んだ山神は、今度は風を刃のようにして飛ばすが、丁度円香の後ろにいた人型の影にぶつかって消えてしまった。


「下がってろ山神!!」

 火野の叫び声に山神が視線を上げると、円香の頭の上に巨大な炎の球が作り出されていた。触手に防がれていた炎の波も、そのまま上へと向かい、炎の球の一部となる。かなり派手な魔力の使い方だ。

「これで...どうだ!!」

 火野は炎の球を円香へと落とす。防ぐために上へと集まった触手にぶつかると、山神と火野の目の前は一瞬炎と土煙に包まれた。



 静まりかえった廃工場の中で2人は息を呑むが、視界が晴れて現れたのは黒い球体だった。球体が砕けると、中からは両膝を地面に着いた円香がいた。しかし、何事もなかったかのように立ち上がると、火野の方に顔を向けた。これには流石の火野の動きも止まる。

「火野!ボーっとするな!」

 山神は火野をサポートするために急いで戻ろうとするが、円香は砕けた球体の影を大きな氷柱のような形に変えると、火野へと飛ばした。


 火野は我に返り、盾魔術で防ごうとするが、反応が遅れたせいで間に合わない。鋭い影の氷柱の切っ先は、火野の胸へと真っ直ぐ向かった。

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