5章 第17話 捜索④
「くそっ」
山神は扉を何度も蹴るが、扉を破ることはできない。誰かが入らないように、頑丈な鍵が掛かっているようだ。
山神はいつものように風のクナイを作り出すと、更にそれを包むように風を纏わせた。ラグビーボールのようになったそれを、扉に押し付ける。衝撃は扉へと伝わり、押し付けた場所は大きくヘコむ。更に力を込めると、歪んだ扉が外れた。
「よしっ!」
山神は外れた扉を奥へと押して外そうとするが、資材が倒れているのか何かに引っかかって開けることができない。逆に引っ張るのも、扉が歪んでいるせいか外すことができなかった。
山神が焦る気持ちを抑えてガチャガチャとどうにか外そうとしていると、後ろから誰かに押しのけられた。その直後、炎が扉ごと入口の奥にあるものを吹き飛ばした。
「何モタモタしてんだ、お前」
山神が振り返ると、呆れた様子の火野が立っている。
「火野!お前...来てくれたのか」
「俺は行かないとは言ってねぇぞ。早く中に入れ」
火野がそのまま中に入るのに続き、山神も中へと入る。すると、扉から離れた真ん中辺りに少女が2人見えた。1人はどこか虚ろな表情で立っており、もう1人は尻もちをついて座り込んでいる。
「明!円香!」
山神の声に反応したのは、尻もちをついている明だけだった。彼女の周りを立体化した人影のようなものが囲んでおり、じりじりと明へと近づいている。
山神は勢いよく地面を蹴って駆け出すと、風の力を利用して跳ぶように明の元に近づく。そして影の後ろに近づいた山神は、両手の風のクナイをそれぞれ別の影にぶつけた。影はあまり手応えなく霧のように消える。
「大丈夫か?立てるか?」
明が頷くの確認すると、肩を貸して立ち上がらせた。合わせて円香を見るが、まるで人形になってしまったかのようだ。その顔からは表情が全く読み取れない。
(...とりあえず明をここから離すのが先だ)
2人は入口付近へと戻ろうとするが、残っていた影が近づいてくる。しかし、火野の炎が山神たちを守るように壁になった。炎の壁に触れた影は、同じように消える。
「あ、ありがとう...」
入口付近へと戻った明は、ホッと息を吐く。しかし、火野は険しい表情で円香の姿を見ていた。
「あれが月見円香か?さっき言ってたのと随分印象が違ぇな」
確かに火野の言うとおり、普段の円香とは程遠い雰囲気だ。彼女が時折見せる寂しさよりも、もっと冷たい何かを山神は感じていた。
「間違いなく円香だ。ただ魔術の影響で正気を失ってるかもしれない」
「そ、そうなの!私が何度呼び掛けても返事してくれなくて...」
明の言葉に火野は頷くと、目の前に大きな炎の球を作り始める。
「なるほど...じゃあ、魔術でいったん気絶させるしかねぇな」
「何!?おい、待て火野」
山神が制止する声も聞かずに、炎の球が十分な大きさになると、火野はそれを円香に向かって飛ばした。もし直撃すれば、かすり傷程度では済まない。
しかし、火野の予想に反し、炎の球は円香に届くことはなかった。何本もの影の柱が現れて壁を作ると、炎の球を受けとめる。影の壁を突き破ることができなかった炎は、その場で消えてしまった。
更に円香の周りの地面から、立体化した人の影が何体も現れる。その様子を見た火野は舌打ちをして、顔を強ばらせた。
「こいつ思ったよりヤベぇぞ」
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