5章 第16話 捜索③

「むーかーつーくー!何なのあいつ!」

 明は進みながらも地団駄を踏む。山神は苦笑いで彼女をなだめた。

「さっきも言ったけど、響は間違ってないよ。むしろ手がかりを得たのを感謝しなきゃいけないくらいだ」

 しかし明は納得しない。もちろん頭ではわかっているのだろうが、円香を見つけられていない焦りもあって、その熱はなかなか収まらない。

「だけど、あの言い方はないでしょ。おまけに連絡先!?ネットに書き込んでやろうか...!」

「おい、それはやめとけよ」

 不穏なことを口走り、明は握りつぶしていたメモを開いた。しかし、メモを目にした明は足を止めた。それに気づいた山神は不思議そうに振り返る。


「山神!」

 明はメモに書かれている内容を読み上げる。

「北西の廃工場に強い反応...。これって」

「円香の居場所か!」

 山神は明の手からメモを取る。確かに読み上げた内容が書いてあった。幸い向かっている方向と一致する。

「...ここであいつが嘘を書くとは思えない。なんにせよ俺たちの頼りはこれだけだ。あの廃工場なら人気もないし、可能性は高いと思う」

「......」

 明は何か言いたげな表情を浮かべるも、一言「分かった」と答えて歩きだそうとした。しかし、進行方向に山神はメモを差し出す。

「続き書いてある」

 明が不思議そうに受け取り、続きに目を通すと...。

『北西の廃工場に強い反応。


無事に見つけたら連絡してね

→hibiki〜〜 』


「...やっぱむかつく!!」

 明はそう叫ぶと、もう確認できないくらいにメモをビリビリに破り捨てた。

「あいつハートが強いな...。とりあえず急ごう」



 2人は廃工場に着くと、入口へと向かう。いわゆる大企業の工場ではないが、人気がないせいか広く感じられる。

「よっと...、だめか。中から鍵が掛かっているみたいだ」

 山神が錆び付いた扉を引くが、開く様子はなかった。他に入口がないか辺りを見渡すと、換気用の小さな窓が外れていることに気がついた。明なら何とかくぐることができそうだ。

「あそこ!私が入って中から鍵開けるよ」

「大丈夫か?」

 山神は不安から止めようとするが、明は気にせず四つん這いになりくぐって行った。中から咳込む声が聞こえる。

「ちょっと待ってて。何とか開けられ......円香!」

 通り抜けた明は閉められた扉に近づこうとしたところで、工場の中に倒れ込んでいる円香に気づいた。扉の鍵を開けずに、円香の方へと走っていく。

「待て明!とりあえず扉を開けろ!」

 山神は必死に扉を叩いて明を止めようとするが、足音は遠くへ行ってしまう。

 その数秒後、山神の悪い予感は的中し、中から明の悲鳴が聞こえてきた。


(ま、まずい)



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る