5章 第15話 捜索②

 響は魔法陣の描いたメモを裏向きでマットの上に置くと、それを手のひらで押して魔力を込める。数秒後にゆっくり手を離すと、紙は消えて魔法陣だけが十字部分の上に残されていた。

「この魔法陣の中心...つまり線の交差してる部分が今俺らが居る場所ね。んで、そろそろ...」

 するとマットに4つ光の点が浮かび上がる。先ほど響が片方を北と言っていたことを考えると、北西方向に1つ、南東方向に3つということになる。


「あら...絞りきれなかったか。特徴からどれかだと思うんだけどね」

 響は頭を掻く。少しアテが外れたような様子だ。

「ああ...近くに夢華ゆめはな高校があるからか。魔力の特徴が似ている子がヒットしちゃったんだ」

 夢華高校は都内一のお嬢様学校だ。中高一貫の女子校で、優秀な生徒も多い。先ほどの円香の特徴だけでは特定しきれなかったのだ。


「全部当たってる時間はない。もっと絞れないのか?」

 山神はなんとか方法がないかと詰寄る。これに響は冷静に返した。

「これ以上絞るなら、もっと詳細で踏み込んだ情報が必要になるかなぁ。それこそ...人に言えないこととかね」

「......」

 山神は難しい顔で黙ってしまう。幼馴染ゆえに明も知らないだろう情報も分かるかもしれないが、緊急時とはいえ話すことには抵抗があった。一方の明は、なにか決心した様子で口を開く。

「山神...もうあのこと言うからね」



「「はあ!?」」

 驚きのあまり火野と響は声を重ねる。響に至っては、写真とメモを何度も確認していた。

「死霊魔術って...やっちゃいけないことやっちゃダメでしょ。やめだやめだ」

 響は投げやりに言うと、魔術を取り止めた。浮かび上がった光の点も消える。

「お...おい、響!」

「『おい』じゃないだろ。山神、俺らが何を目指してるのか分かってんのか?」

 響は今までにない険しい顔で山神に迫る。

「理由は知らないけどな、魔特に知らせずに見つけてどうするつもりなんだよ。お前らだけで止めて黙ってるつもりか?さすがに手伝えねぇ」

「そ、そんな...せめてどの場所かくらい...!」

 しかし山神は明を手で制した。先ほどより冷静になった様子だ。一方の明は、突然魔術を取り止められたことに苛立っているようだった。

「いや...響の言うとおりだ。円香が死霊魔術使ってるかもしれないなら、尚更魔特に知らせるべきだ。法令違反の幇助にもなりかねないし、無理には手伝わせられないよ」

 でも...と興奮している明の腕を引き、点が浮かび上がった北西の方向へ向かう。

「ちょっと、山神!」

「悪かったな2人とも。でも魔特が先に見つけたら、長いこと話せなくなるかもしれない。魔特には後で必ず知らせる。協力してくれたのは黙っとくよ」

「...そうかい。黙っててくれると助かるね。...ああ、ちょい待ち。明ちゃんだっけ?これあげる」

 響はポケットから折りたたまれたメモを取り出すと、明へと手渡す。反射的に受け取った明は、その場で開いて中を見ようとしたが...。


「それ俺の連絡先ね。じゃあね」

 手を振る響の言葉に、明は開きかけたメモを握り潰した。

「ふっざけんなぁーー!!」

 山神は暴れる明をなだめつつ、2人に軽く手を振ってその場を後にした。



「...俺は暇だから行くけど、お前行かねぇの?」

 2人が少し離れたところで、火野は響に問いかける。彼は呆れた様子で返答した。

「行かないって。キャリアに傷がつくことはしないの。山神も理解してたでしょ?」

「...素直じゃねぇな」

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