5章 第13話 死霊魔術(ネクロマンス)④

「明、付き合ってくれないか?」

「どぅえ!?」


「ん?。いや、放課後に円香の様子見に行こうと思ってさ」

 明の異常な反応に、山神は首を傾げる。明はなんでもないを連呼して誤魔化すと、一呼吸置いてから答えた。

「あー、今日休みだもんね。確かにちょっと心配。最近なんか変だったし」

 明はスマホの画面を確認しながら言う。彼女の送ったメッセージに、円香からの既読は確認できなかった。

「俺一人でもいいけど、明も行った方が喜ぶだろ。どうする?」

 特に断る理由もなく、明は首を縦に振った。



 放課後2人は円香の家へと歩いて向かっていた。本当は絵理も誘う予定だったのだが、用事があるとの事で結局2人で向かうことになった。明としてはそれを少し期待する気持ちもあったが、ただ世間話をしているうちに、円香の家に着いただけだった。

 

山神が慣れた様子でチャイムを鳴らすと、円香の祖母が玄関に現れる。

「あら、剣ちゃん。久しぶりね。元気だった?」

「おばあちゃん久しぶり。そっちも元気そうで何よりだよ。クラスメイトと一緒に円香の様子見に来たんだけど、話せそう?」

 明はペコッと頭を下げる。円香の祖母が優しく微笑むと、少しホッとした様子を見せた。

「それがねぇ。元気になったみたいなんだけど、外に出ていっちゃったんだよ。すぐ戻ると思うから、部屋で待っててくれるかい」

 円香の祖母の言葉に、2人は顔を見合わせた。いくら元気になったからといって、1日欠席していたにも関わらず、外出してしまうのは妙だ。

「とりあえず中で待ってみるか」

 山神が答えると、円香の祖母は喜んで2人を招き入れた。



 円香の部屋に入ると、明は興味あり気に部屋の中をキョロキョロと見回した。物が整理整頓されていて、いつ人が来ても困らないキレイさだ。

「整ってんな...。同じJKの部屋とは思えん」

 明は感心した様子で床から壁まで眺める。山神は明の発言から、少し散らかった彼女の部屋を想像して苦笑いした。

「ん?円香ってこんな本読むんだ」

 続けて明は机の上の本に気づくと、その中の1冊を手に取った。円香が図書館で借りてきた死霊魔術の本だ。

「し...りょう魔術?えっと、ネクロマンスだっけ」

「死霊魔術...!?」

 山神は怪訝な顔をする。彼は明が持っていた本を受け取ると、ページを捲った。無言で読み進める姿を明は不思議そうに見つめる。しばらくして、山神が口を開いた。

「明...円香ってオカルトとか興味あるか?明と絵理はどうだ?」

「いや...聞いたことないけど。私も興味無いし、絵理は占いとかは好きだけど...」

「だよな...」

 山神は額に手を当てる。

「死霊魔術は魅了魔術とかの精神作用系の魔術と同じで、一般人が使うと違法になるんだよ。そもそも同じく違法だとしても、魔術のランクが違いすぎる。死霊魔術はこの国でも数人しか使えないはずだ」

 魅了魔術と聞いて、明の顔が強ばる。学園祭の出来事が頭を過ぎったのかもしれない。

「勘違いならいいけど、ちょっと不安だ。明、円香探すの手伝ってくれるか?」

 明は困惑した様子で頷いた。彼女の瞳は先程までとは一転して、不安な色に変わっていた。


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