5章 第11話 三流の幻術

「お前...!話が違うぞ。ターゲットはただの女子高生だと言っただろう」

 占い師に近づいたのは御堂彩だった。彼女は近づいてきた彼に気がつくと、今にも殴りつけそうな剣幕で迫る。しかし当の本人は全く動じない。

「ただの女子高生さ。そうじゃなきゃ死霊魔術なんか信じると思うか?」

「くっ...」

 占い師は思わず黙る。もし円香にもっと魔術の知識があれば、道端の占い師が死霊魔術を使えるのはありえないことだと分かる。

「それに話が違うのはこっちのセリフだよ。まさかただの女子高生に幻術弾かれるとはな。三流の詐欺師だったか」

 さらに呆れたように続ける彩に対して、占い師は怒りを露わにする。彼女は両手で自らの首を絞めるようなジェスチャーをすると、彩は急に糸の切れた操り人形のように項垂れた。円香に死霊魔術と偽って使用していた幻術だ。

ジェスチャーと魔力により対象を眠らせて、過去の出来事を明晰夢のように見せる魔術。相手が直前に強く意識したものを見せることができるため、彼女はそれを利用していた。


「...ふん。大きな口聞いてても子どもか。せめて幸せな夢を見せながら...」

 しかし占い師が気を抜いた瞬間、彼女の足元に魔法陣が現れた。気づいた彼女は咄嗟に避けるが、魔法陣から発動した炎の柱をかわしきれない。

「熱っ!!」

 占い師が転がりながら叫ぶ。彼女が彩を見上げると、幻術で眠っているはずの彼は何事もなかったかのように立っていた。さらに魔術による炎の鳥が、彼の周りを飛び回っていた。

「だから三流だって言ったろ。そんな幻術が俺に効いたと思い込んでる。まあ欠伸は出るけどな」

 占い師は立ち上がって彩を睨みつける。一方の彩は変わらず不敵な笑みを浮かべたままだ。


 先に動いたのは占い師だった。彼女が足の裏で地面を2度叩くと、小さな光の球が地面から飛び出た。その光の球は彩の顔の前に跳ねて破裂すると、カメラのフラッシュのように光った。あまりの眩しさに彩は目を閉じる。

 彼が目を開けると、占い師の姿はなかった。

「逃げ足は一流...いや、二流だな」

 彩は少し楽しげに呟くと、自分の首に当てていた両手を離す。さらに彼女が忘れていったスマホを拾い上げると、どこかに電話をかけた。

「もしもし。あー、占いで人騙してた詐欺師が三校近くで眠ってるんで。それじゃ」

 さっさと要件を言うと、彼女のスマホを投げ捨てて、軽く息を吐いた。

(さて、アテにしてた死霊魔術が詐欺だと分かったらどうするかな。月見円香ちゃんは...)




「はあはあ...」

 占いをしていた場所から少し離れた路地で、占い師は膝に手をついて息を整えていた。後ろを振り返るが、彩が追ってくる気配はない。

(くそっ。あんなガキから逃げるのは不本意だが、派手に交戦すれば警察に見つかる可能性もある。私はまだ捕まら...)

 すると急に足から力が抜け、地面に膝をつく。占い師は自分が強烈な眠気に襲われていることに気づく。

(わ、私の、幻術だ......と...)

 彼女は抵抗する間もなく、その場に倒れ込んだ。

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